「コロナ第2波」襲来に備えながらも、かつての日常を取り戻そうとしている日本。そんな今、話題となっているのが、抗体検査による「免疫パスポート」だ。その実態を知るべく、アサ芸記者が検査を受けてみたところ、驚きの事実が‥‥。
加藤勝信厚生労働相(64)は、4月に東京都と東北6県での献血の中から無作為に500人の検体を取り出して検査した結果、0.5%に新型コロナウイルスの陽性反応が出たことを公表。6月には東京、大阪、宮城で合わせて1万人規模の抗体検査を実施することも発表した。それぞれの地域から20歳以上の男女1000人程度を無作為に選出し、採血する計画だ。
そもそも抗体検査は何のためにあるのか。感染で体内にできるタンパク質(抗体)の有無でコロナにかかったかどうかがわかるといい、つまりは「感染歴」を調べる目的である。
もし抗体が発見されればウイルスに対して耐性を持つため、他人に感染させるリスクが抑えられ、移動の自由も獲得できる─。そう考える人が大半なのではないか。そうして欧米で持ち上がっているのが、その証明たる「免疫パスポート」構想なのだという。
百聞は一見にしかずと、アサ芸記者は実際に抗体検査を受けてみることにした。インターネットで医療機関を検索すると、検査費用は5000円から2万円前後と幅がある。記者は約8000円の都内クリニックを選択し、電話してみた。
「来院して検査されますか。もしくは、お電話で診察後に検査キットを郵送しますので、ご自分で採血をして送り返してもらうことになります」
なるほど、在宅検査もできるのか。精度はどんな具合かと質問すると、
「うちの検査キットの感度は70~80%、特異度は90%です。感度は疾患のある人を正しく疾患があると判定する確率で、特異度は疾患のない人を正しく疾患がないと判定する確率。ただ、新型コロナ用に限らず、『感度100%、特異度100%』という完璧な検査は存在しません。うちのは中国で実際に使っていて、抗体を持っているか持っていないかの一つの目安となっているキットの中でも、実用性が高いものですね」
そのキットは中国イノヴィータ社のもので、中国では一般的に使われているらしいことがわかった。ソフトバンクの孫正義会長兼社長が購入して医療機関向けに無償提供しようとしたものも確か、イノヴィータ社製だったような‥‥。
今回はクリニックに出向くことによる濃厚接触の機会を避けるため、キットを郵送してもらい、リモート診察を受けることに。医師からは「持病はないか、最近具合が悪くなったことはないか、血圧は高くないか」といった三つの質問があり、それに答えるだけで終了。3日後にクリニックからのゆうパックが届いた。
封を開けると、中にジップロックが入っている。その中にはさらに中サイズのジップロックが、またその中には小サイズのジップロック! マトリョーシカ方式で保護された抗体検査キットである。
厳重管理の袋の中から取り出し、仕様書を読んでみた。キット本体は使い捨てタイプの皮膚穿刺器具だ。それに指の爪ほどの大きさの蓋付きフラスコのような瓶(薬液が入っている)と消毒綿、スポイト、絆創膏。これが全貌である。
やり方はいたって簡単だった。皮膚穿刺器具についているボタンを押すと針が飛び出してくる。消毒綿で拭いた指の先をその針でチクリと刺し、スポイトで血を採取。それをフラスコの中へ落とすのみだ。そして指先に絆創膏を貼っておしまい。ゆっくりやっても、10分もかからない。あとは3重構造のジップロックに入れてクリニックに返送し、結果を待てばいい。
それから5日後。クリニックの医師から電話がかかってきた。
「結果が出ました。陰性でした。よかったですね」
陰性‥‥ということは、コロナの抗体ナシ? ああ、ガッカリだ。いやいや‥‥ではなく「よかったですね」とはいったい何か。
「陰性=抗体を持っていない」わけだから、今後感染する可能性があるので残念、ということではないのか。
「いえいえ。抗体検査で陽性が出たとしても、その抗体が終生免疫だとはまだ解明されていないんです。それに、抗体があっても再感染する、つまり1~2カ月で抗体が消えてしまう可能性も世界で指摘されています。いまだ謎が多い未知のウイルスなので、かからないに越したことはないんですよ。陰性で万歳です」
むぅ‥‥そう言われても、どうも腑に落ちない、と考え込んでいると、
「仮に陽性だったということは、一度はどこかでかかっていますからね。たとえ無症状だった場合でも、ウイルスが一度体内に侵入していたとするなら、それなりに体内細胞は(ウイルスに)アタック(攻撃)され、弱っている。かからないに越したことはないんです」
あらためて「よかったですね」と、明るい口調の医師。後日、検査結果が書かれた証明書が郵送されてきた。
本当によかったのか。抗体がないって、怖くないのか。いまだ釈然としない記者は、かつて何度か診察を受けたことがある総合病院の内科医師に聞いてみることにした。すると─。
「抗体検査、したの? 残念ながら今の抗体検査は、陰性なのに陽性と判定される偽陽性や、陽性なのに陰性と判定される偽陰性も報告されていますよ。しかも、自分で採血して行う検査は感度に欠けます」
そして内科医師は、さらなる「核心」について話し始めた。
「それ以前に、陽性だったら、それはそれで大問題です。保健所に報告して、すぐにPCR検査を受けなきゃいけませんから。自分がいつかかっていて、誰にうつしたか、気になるでしょ。さらに言えば、せっかくついた抗体が再感染のリスクを高めたり、逆に症状を悪化させることがあるとも、一部で言われている。陰性だったから、陽性だったから、といって一喜一憂しなくてもいいんです」
保健所に報告してPCR検査、そして正式に陽性と判定されれば、日々報道される「今日、確認された感染者は●人」に自分もカウントされることになる。
確かに抗体があったらあったで、だいぶ前に感染していたのか、それとも最近感染したのかもわからない。最近だとすれば、もしかして昨日あたり誰かにうつしたのでは‥‥などとよけいな心配も出てくる。
そもそも「抗体アリ=もう感染しないから安心」というぼんやりと抱いていた「常識」はまったく不正確だったのだ。抗体があったところで何の保証もなく、大手を振って街を歩くわけにはいかない。「よかったですね」の意味がようやく理解できた。
先の内科医は抗体検査の実態について、こんなことも教えてくれた。
「抗体検査は他のウイルス感染症で確立されているものもあるけど、新型コロナウイルスに対してはデータの蓄積が不十分。今、スイスやアメリカ製の信頼性が担保された抗体検査には日本も期待しているみたいですが、その場合は静脈中の血液を医師や看護師が採取することが必須。やはり専門家がきちんと処置しないと、正確さには欠けますよ」
あぁ、「免疫パスポート」の夢はどこへ─。正しい知識が不可欠と、今さらながら実感したのだった。