SNS世代を虜にする「カシヤマ」“格安オーダースーツ”の拡大戦略

 安いスーツといえば「洋服の青山」「AOKI」「コナカ」「はるやま」などの量販店が有名だが、いま若者を中心に急伸しているのがオンワードホールディングス傘下のオーダースーツブランド「カシヤマ」だ。

 同社の2024年度決算(24年3月〜25年2月)は売上高62億円と前年比137%、リアル店舗売上は152%と過去最高を更新。ショッピングセンター内への出店やデジタル広告で客数を伸ばし、営業利益も黒字転換した。新規顧客数は前年比152%に達し、初回20%オフや「1着2万4000円から」という価格設定が、心理的ハードルを一気に下げた。

 とりわけ学生向け「学割」キャンペーンが牽引役だ。学割の売上は前年比192%(メンズ210%/ウィメンズ171%)。なかでもウール100%の4万円ゾーンが621%と爆発的に伸長した。シワ回復性や艶感に優れる素材が、就活や新社会人の連日着用ニーズに合致し、試着で既製品との差を実感した若者がリピーターになっているという。実際、10代の利用者は前年の2.6倍、20代も1.37倍に増えており、「オーダースーツは高い」というイメージが少しずつ薄れ始めているようだ。

 一方で、エグゼクティブ層や中高年にも選択肢を広げている。イタリアのファブリックブランド「カノニコ」や「ロロピアーナ」の生地を用いた7万7000円~13万円のハイエンドラインも用意。プラス5500円でフル毛芯仕立てへの格上げも可能で、既製品では肩幅が合わない細身・大柄の人らが、洗えて軽い高級生地のセットアップを求めて店を訪れるケースが増えている。

 注文はサイトで来店予約→店頭で生地・デザイン選択と採寸→データを自社工場へ送信→最短1週間で自宅配送、という流れ。採寸データはクラウド保存され、2着目以降はアプリからワンクリックで注文可能。さらに、30日以内の無料サイズ調整と365日のウエスト補正無料というアフターサービスも安心感を支えている。

 ビジネスウェアの多様化が進むなか、着用目的や体型に合わせて「作る」という体験自体が消費価値となりつつあり、その潮流を取り込んだ同社の成長は当面続きそうだ。

(ケン高田)

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