「カナダはアメリカの51番目の州になるべき」トランプ氏、露骨な領土的野心の計算された裏

 カナダのトルドー首相が1月6日に首相と与党・自由党の党首を辞任する意向を表明すると、これを受けたトランプ次期米大統領は、「カナダはアメリカの51番目の州になるべき」と、改めて強烈な皮肉をSNSで放ち話題になった。

 トルドー首相はこれを受け7日、「カナダがアメリカの一部になる可能性はないに等しい」とコメント。これには“ゼロじゃないのか?”とのツッコミも入れたくなるが(野党保守党党首は「絶対にない」と言い切っている)、それはともかく、20日の大統領正式就任を前にして、トランプ氏の「領土的野心」とも言える発言が増していることから、世界はこの点に大きく注目している。

「6日、米議会が今回の大統領選挙でのトランプ氏の勝利を正式に認めたのを受け、7日にトランプは記者会見を行いました。そこではあらゆる面への言及がなされましたが、中には『領土』の問題も含まれている。一つはデンマーク自治領の北極圏のグリーンランドの購入で、もう一つはパナマ運河の返還です」(全国紙記者)

 グリーンランドについては、トランプ氏は政権1期目でも購入に意欲を示したが、デンマークやグリーンランド政府の「売り物ではない」との反発もあって実現しなかった。ところが昨年末に再び「購入」に言及。1月7日には息子のドナルド・トランプ・ジュニアを派遣、併せて本人も「米国の一部になれば莫大な利益になる」とSNSで発言していた。

 またパナマ運河については、昨年12月22日にアリゾナ州の支持者の集会の場で言及し、「パナマが請求している(通航)料金はばかげていて、非常に不公平だ」とし、これを「法外」だとしていた。もちろんパナマ運河は中央アメリカを横断して太平洋と大西洋を結ぶ海上交通の要衝だが、1900年代初頭にアメリカが建設後の77年まではアメリカが管理権を有し、その後はパナマとの共同管理を経て、つい先頃亡くなったカーター大統領政権下の99年に全面的にパナマの管理下に移ったという経緯がある。

「会見でトランプ氏は、グリーンランドとパナマ運河の獲得のためには軍事力の行使も排除しないとしました。またメキシコ湾の名称を『アメリカ湾』にしたいとも。トランプ氏はカナダとメキシコに25%の関税を課すとプレッシャーをかけていますが、これに『51番目の州』と『アメリカ湾』発言が加わったことで、『領土的野心』が疑われているのです」(同)

 領土的野心と言えば、ロシアのウクライナ進行と、いつ起こってもおかしくない中国の台湾侵攻が容易に思い浮かび、民主主義に対する権威主義国家にアメリカも陥るのかとの想像が働く。だが、そこは一概に領土的野心とは言い切れない合理的な理由もあるのだとか。

「グリーンランドに関しては地球温暖化で北極の氷の融解が進むことにより、北極圏の運行や資源開発の利権争いでロシアに遅れをとってはいけないという理由があります。またパナマ運河も、中国の利用がアメリカに次いで多く、またパナマは中国からの経済援助を背景に、中華民国として107年の外交の歴史があった台湾と断交して『1つの中国』を支持する国になっている。これに楔を打ち込むという対中露戦略の1つでもあるのです」(経済ジャーナリスト)

 やはりトランプ氏が大統領に就任する1月20日以後、世界で何が起こるか分からない。

(猫間滋)

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