20年9月にインドで最初にリリースされ、昨年9月には日本にも上陸して今や世界100カ国以上で利用可能になった「YouTubeショート」。「ショート」の文字通り、最長60秒の短い動画を撮影し、公開、共有できる。撮影はもちろんスマホで完結するので、要はTikTokのYouTube版で、YouTubeがTikTokに対抗すべく始めたサービスだ。そして25日にYouTubeのスーザン・ウォシッキーCEOが明かしたところによれば、その視聴回数が5兆回に達したという。
「ムービー共有アプリでは中国企業のバイトダンスが16年にTikTokをリリースして先行。その後、やはり中国発のLikee(ライキー)やアメリカ初のByte(バイト)、Dubsmash(ダブスマッシュ)などが続き、さらにGAFA系から20年8月にはインスタグラムのReels(リール)が、そしてさらにYouTubeショートが加わるといった流れで広がっています。その間、フェイスブックのLasso(ラッソ)やアメリカ発のQuibi(クイビ)は途中で撤退、クイビに関してはウォルト・ディズニーやアリババが出資したことで注目を集めましたが、敢えなく半年で撤退しました。そして現在、アプリ利用情報の調査会社Apptopiaによれば、全世界でダウンロードされたアプリのランキングでは、1位がTikTok(6億5600万回)、2位インスタグラム(5億4500万回)、3位フェイスブック(4億1600万回)と、やはりTikTokが根強い人気を誇っています」(ITライター)
ムービー共有アプリは特にZ世代(90年後半から00年代生まれ)から人気が高いが、インフルエンサーが発する情報を簡単な動画で共有できるとあって、マーケティングの世界でも無視はできない存在になっている。だからYouTubeも後発ながら参戦してきたのだが、そこでYouTubeは後れを挽回するために、昨年5月に「YouTubeショートファンド」を立ち上げ、視聴数の多かったクリエイターに1億ドル(約109億円)の報奨金を支給する。だが、それに先んじてTikTokは基金「クリエータファンド」を立ち上げており、クリエーターに対して2億ドルを支援。SnapChatのムービー共有アプリのSpotlightやリールでもクリエーターに報酬を支払う方策は採っていて、優れた人材の獲得合戦になっている。
「というのも、全てのムービー共有アプリに共通する課題として、ユーザー発信のオリジナルコンテンツが不足しているのです。これだけ乱立してユーザーが分散するからそうなるのも当然なのですが、実際にこれらのアプリを使ってみると、別のアプリで使われた動画がそのまま使われているケースが多いんです。ですから報奨金もオリジナルコンテンツであることが条件となっています」(同)
また、ムービーで使われる楽曲の著作権をどうクリアするかという問題もあって、使用可能な楽曲が豊富でかつ、そのアプリでしか作れないコンテンツをどう揃えられるかが勝負のカギとなる。
そこでYouTubeに優位があるとすれば、例えばユーチューバーが自らのチャンネルの宣伝のためのショートムービーを用意することで、利用者をYouTubeのチャンネルに誘導できたりと、プラットフォームビジネスとして成り立つ点だろう。
そこで先日明らかになったTikTokのステマ問題。金銭を支払ってTikTokの宣伝をツイッターでやってもらっていたというわけだが、TikTok内でユーザーを繋ぎとめておく広がりのなさを感じさせるあたり、象徴的な事件と言えるのかもしれない。
(猫間滋)