人口減少は国家の危機ーー。
9月17日、自民党総裁選の候補者共同記者会見で、野田聖子幹事長代行が放った一言だ。
総務省統計局によれば、日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに減少が続き、21年は1億2530万人だった。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2065年には8808万人にまで減少するという。
しばしばマスコミでは、人口減少によって「日本経済が崩壊する」「年金制度が破綻する」などセンセーショナルな見出しで飾られることも多い。しかし、経済ジャーナリストは次のように解説する。
「人口減少と聞くと、多くの人は日本の経済力が低下すると思い込むようですが、それは間違いです。経済学の通説や海外の事例では、むしろ人口増加のほうが経済にマイナス影響を及ぼすと証明されています。それに、日本の実質GDPは、(リーマンショック前の)2007年は527兆円でしたが、(コロナ発生前の)2019年は556兆円。同期間の人口は減少に転じているにもかかわらず、経済成長できている。このことからも、現時点では人口減少率と経済成長率はあまり関係ないといえます。仮に今後、人口減少が加速したとしても、需要(消費者)が減れば供給(生産者)も減るため、一人当たりのGDPに変化はない。もっとも、労働力不足は女性やシニア、海外人材の積極登用、AI化などによってカバーできますし、需要不足が起きれば企業は輸出で補おうとするでしょうから、国全体のGDPもそれほど目減りすることもない。いずれにせよ、人口減少で日本人の生活が貧しくなるとは考えにくいでしょう」
また、人口減少問題は少子高齢化問題とセットで語られることも多く、公的年金制度(国民・厚生年金)の破綻も危惧されているが、これも間違いだという。
「たとえ少子高齢化によって、高齢世代を支える現役世代の年金負担が増えたとしても、出生率の予測を見誤らない限り、日本の年金制度は破綻しません。もし、給付と負担のバランスが崩れそうならば、その時の社会環境に合わせて年金額を抑制したり、受給開始年齢を引き上げたりなど都度調整すればいいだけの話。それに加えて、年金積立金の残高は200兆円にものぼるため、万が一3年以上保険料収入などがゼロであっても、払い続けることができるほど頑丈な制度設計です。年金制度は〝保険〟と同じシンプルな仕組み。仮に20歳から60歳まで払い続け、65歳を支給開始年齢とした場合、早くに亡くなれば賭け損となりますが、約10年受け取れば元をとれるため賭け得となります。世の中には様々な保険がありますが、これほどコスパのいい商品はありません。年金破綻など心配せず、毎月しっかり払って、1日でも長生きできるよう心がけたほうが賢明でしょう」
年金負担を強いられている現役世代からは、高齢世代に対して批判の声も相次いでいる。いまの日本に必要なのは、人口減少・少子高齢化問題への正しい理解と、将来自分も歳をとるという「明日は我が身」の精神なのかもしれない。
(橋爪けいすけ)