3月11日に行われた記者会見で、近い将来、日本の自動車輸出が直面する「LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)」の問題に触れ、「今のままだと海外でクルマを作るしかなくなる。対応を誤れば、自動車業界550万人のうちの70万人から100万人の雇用に影響が出てくる」と、危機感を示した自動車工業会の豊田章男会長。
「LCA」とは、製品やサービスに対する、環境影響評価のことで、商品を製造から輸送、販売、使用、廃棄、そして再利用に至るまで各段階で環境負荷を明らかにし、改善策を検討するというものだ。自動車ジャーナリストが語る。
「自動車の分野では、ヨーロッパが2030年から厳しいLCA規制を採り入れる方向を打ち出していますが、具体的には部品の生産から組み立て、廃車に至るまですべての過程で排出する二酸化炭素量を考えようという取り組みです。そうなると、今、日本で火力発電によって生産されたクルマは電気自動車も含め、LCAに引っかかってしまい、ヨーロッパで販売できなくなる可能性が高い。そうなれば、当然、輸出で得ていた15兆円の外貨が入ってこなくなります。業界トップである豊田会長が危機感を露わにするのは当然のことなんです」
つまり、どんなに性能が良くても、燃費抜群のクルマであろうと、火力発電により日本の工場で生産されたものは、購入してもらえないというわけだ。
2030年と言えばあと9年後だが、「いまのところ一発逆転出来るような打開策が見つかっていない」というのは、前出のジャーナリストだ。
「現在、ヨーロッパでは2030年までにクリーン電力(二酸化炭素を排出しない)を60%にする目標で開発が進められていますが、日本では原発を稼働したとして、せいぜい20数%程度。原発を稼働させなければ、8割弱を火力発電に頼らざるを得ない状況が続くはずです。そうなれば、クルマを海外の工場で作るしかなくなり、日本の工場は閉鎖しなければならなくなる。当然、下請けや孫請けに影響が出てくることは必至。日本の自動車業界そのもののあり方が大きく変化する可能性があるかもしれません」
そこで、近年注目されているのが、太陽光や風力、地熱などを利用した再生可能エネルギーだ。だが、原発を推進してきた日本は、ヨーロッパに比べ、まだコストが高いという。
「ヨーロッパでは1KWhあたり6円前後ですが、日本の場合はその倍以上。しかし、太陽光発電は一度設置すれば、最も安価で環境破壊が少ない発電方法。たしかに、日本は火山国であり、地震国でそれを原因とする災害も多い。ただ、そうしたデメリットを逆に活かせば『地熱発電の適地』でもあるはずです。緊急事態のいまこそ、小泉大臣が早急に専門家を集めて、自然エネルギー発電を促進して欲しいと思うのすが、相変わらず『プラスチックスプーンを……』なんて、ノー天気なことばかり言っている状態ですからね。手をこまねいていたら本当に大変なことになる。大臣には危機意識を持ってもらいたいですね」(前出・ジャーナリスト)
ヨーロッパでは既にLCA規制を見越し、各社共に用意がスタートしている。好むと好まざるとにかかわらず、電動車へのシフトが進み環境規制が進むことは間違いない。しかも、そんな中で、日本だけが自国内で販売すれば世界中から非難を浴びるはずだ。
原発問題がネックになり重い腰を上げない政府に対し、自動車業界からは「基幹産業としての自動車生産を守るため、自ら自然エネルギー発電所、水力発電等の開発を」という声も上がっている。いまこそ、小泉大臣のリーダーシップが期待されるのだが……。
(灯倫太郎)