「二度と働けなくしてやる」介護業界で横行する“コロナいじめ”と冷遇実態

 新型コロナウイルスが猛威をふるう中、医療・介護現場で働く職員への誹謗中傷や差別が相次いでいる。2月21日、Web東奥(東奥日報社)が報じたニュースによれば、青森県の福祉施設で働く女性がコロナ陽性と決めつけられ、退職に追い込まれる事案が発生したという。

 事の経緯を説明すると、女性は昨年友人3人と一緒に1泊の温泉旅行に出かけた。その直後に女性が住む地域の飲食店でクラスターが発生し、さらにその1週間後に一緒に泊まった友人の1人から「例の飲食店の利用者と接触していたので、自分も濃厚接触者かもしれない」と電話が入った。後日、その友人の陽性が判明。女性も濃厚接触者としてPCR検査を受けたが、結果は陰性だった。

 これだけならばそこまでの問題には至らなかっただろうが、ほぼ同時期に女性が働いている施設の入居者と職員から陽性者が出てしまった。施設側としては、施設内感染は先の飲食店のクラスターと関連性があるとしながらも、経路不明のため責任の所在を追及しない方針を立てていた。

 しかし、本部は施設内に文書を回覧し、「たった一人の行動により、入居者が亡くなった」と書かれていた。この文書ではクラスターが発生した飲食店の店名が挙げられ、罪の意識に苛まれた女性は周囲の目が気になるようになり、精神的に追い詰められた結果、退職を選んだという。

 改めて説明するが、退職女性は飲食店を利用したわけでもなく、検査の結果も陰性だった。にもかかわらず、いつの間にかその施設では女性が感染源であるかのような扱いを受けていたというのだ。

 このニュースを受けて、ネット上では《こんな非合理的で陰湿なコロナいじめをする福祉施設は実名をあげて公表すべきだ》《コロナ禍に介護職の立場で旅行するなんて危機感が足りない。自業自得》など賛否両論のようだ。

 介護業界に詳しいジャーナリストはこう推察する。

「管理者も含め、介護業界で働く人たちは、常に訴訟リスクに怯えています。万が一、不手際で入居者が亡くなってしまえば責任問題になってしまう。絶対にミスをしてはいけないという強迫観念に駆られて、心の余裕を持てず、『私は悪くない!悪いのはアナタ』という他責思考が身につきやすい業界です。今回、青森県で起こった事件も、結局はそういう業界構造がもたらした結果なのでしょう。施設内で陽性者が出てしまったが、誰も責任をとりたくないので感染経路はうやむやにしつつ、とはいえ見せしめのためスケープゴートも必要。そこで一人の職員にすべての罪を被せるような形になってしまったのかもしれません」

 また、介護従事者の7割以上が女性とも言われているが、そのことも業界風土に影響を及ぼしているという。関東の福祉施設で働く松本ひとみさん(仮名、29歳)が語る。

「うちの施設で働く職員は約30人ですが、ほとんどが年配の女性のため人間関係も複雑です。特に60代のお局には絶対服従するのが暗黙の了解。頭のいい真面目な新人が入ってきても、お局率いるオバちゃん軍団にいじめられてすぐに辞めてしまいます。辞めさせるときも陰湿で、『あなたのせいで入居者が死んだ』『責任感がない人にこの仕事は務まらない』『二度とこの業界で働けなくしてやる』などと言われた人もいます。しかもこれは割と業界では“あるある”な話。コロナの慰労金は多少入ったものの、毎月の給与は手取りたったの15万円。本当、割に合わない仕事です」

 コロナ禍で介護の現場では人手不足が深刻化しているが、こうした冷遇体質が変わらない限り、抜本的な解決には至らないのかもしれない。

(橋爪けいすけ)

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