大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」を夕暮れ時に見上げると、まるで蛍が遊ぶように無数の小さなユスリカが淡い光の輪を描いている。幻想的な光景の裏には、夢洲という人工島特有の環境が生みだした、思いがけない「夏の風物詩」が隠されていた。
夢洲はかつてごみ処分地として造成された場所。表層土や地下水のバランスが不安定なため、雨が続くと小さな水たまりがあちこちにできやすく、そこがユスリカの楽園になる。幼虫は有機物を食べて成長し、成虫になると夜の光に寄ってくる習性があるため、会場を彩るライトアップはまさに彼らにとっての大パーティー会場。気づけば、来場者の肩や帽子にとまって「いらっしゃい」とでも言わんばかりだ。
運営側もこのままでは困るものの、会場のルールには「植物や昆虫を傷つけないでください」と明記されており、“いのち輝く”というテーマからもむやみに駆除できないというジレンマがある。そこで、優しい方法を探ることに。まずは幼虫の時期に合わせ、専門の薬剤を水辺に散布して羽化を抑え、次に成虫が嫌う香りの忌避剤を灯りの近くに置いて「他所へ行って」と促す。さらに、排水溝や花壇をこまめに掃除し、水たまりのできにくい環境づくりにも力を入れている。
それでもピークになると、リングの縁が黒い絨毯のように見えるほどの群れがやって来る。しかも問題はこれだけで終わらないのだ。ユスリカを追って「コウモリ」が飛来し、フンが落ちると土の栄養バランスが変わってしまうことも。小鳥が住みづらくなったり、植え込みの植物が元気を失ったり…一度狂い出した生態系の歯車は想像以上に大きな影響を及ぼすかもしれない。
未来志向を掲げる万博がまさか「プチ虫パーク」としての新境地を開拓しようとは…。Xでは、「ユスリカを根絶してしまっては『持続可能性』という取り組みに傷がつくのでは」と皮肉る声も寄せられており、運営側もさすがに苦笑いしているのではないか。
まるで「自然共生テーマパーク」と化した大阪・関西万博だが、きちんとした対策が施されるまでは、虫嫌いの人は来場を避けたほうが賢明かもしれない。
(ケン高田)