「新たな通貨の創設や、アメリカドルに代わるほかの通貨を支持しないと約束するよう求める。さもなくば、100%の関税に直面し、すばらしいアメリカの市場に別れを告げることを覚悟しなくてはならない」
これはアメリカのトランプ次期大統領が11月30日、自身のSNSに投稿したものだ。むろん同氏が「求める」相手とは、BRICS加盟国の首脳たち。露印中とブラジル、南アフリカの5か国で発足されたBRICSには、今年1月にエジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)の4か国が加盟。そんなBRICSは、欧米諸国に対抗するため米ドルを基軸通貨とする国際通貨制度を見直し、自国通貨による貿易取引決済が可能になる、いわゆるドル脱却の動きを活発化させてきた。今回のトランプ氏による「100%の関税」発言は、そんなBRICSへの「関税」を人質にしたけん制であることは言うまでもないが…。
「トランプ氏のBRICSへの脅しとも取れるけん制は今に始まったことではなく、選挙遊説中にも『各国が米ドルから脱却する動きを強めれば、必ず高い代償を伴うものにする』と警告してきた。しかも対象は敵対国に留まらず、同盟国に対してもそうなれば罰するとして、輸出規制や為替操作国認定、貿易課税などの選択肢を検討していると公言してきましたからね。100%になるかどうかは別として、トランプ氏が何らかの動きに出ることは間違いないでしょうね」(国際部記者)
一方、「非欧米」の姿勢を全面的に打ち出す、グローバルサウスを含むBRICSは新たに13カ国を「パートナー国」と認定。ロシアのプーチン大統領も、BRICS加盟国ではすでに貿易取引の65%がドルを使わず各国の通貨に移行しているとアピールしてきた。
「BRICS内で脱ドルの潮流を加速した最大の理由は、2022年に始まった米国を含む西側諸国による対ロシア経済制裁です。この時米国がやったのが、SWIFTからのロシア排除。SWIFTというのは国際銀行間金融通信協会のことで、ここが世界中の銀行を繋ぐネットワークの役割を担っているんです。ところが、米国がロシアをここから外したことで、ロシアが海外の銀行に保有する外貨が凍結されてしまい、これを目の当たりにした多くの新興国が、同じことをされたらたまらないとばかりに、ドルに依存することへの危機感を募らせる結果になった。それがグローバルサウスの中で徐々に広がり、脱ドルの動きが活発化することになっていったんです」(同)
その証拠に、ウクライナ問題でロシアに対する経済制裁に参加した国は、全世界196か国のうちわずか48の国と地域のみ。ほとんどの新興国はロシア制裁に参加しなかった。
「昨年の8月に南アフリカのヨハネスブルグで開催されたBRICS サミットでは、ブラジルのルラ大統領が、脱ドルの必要性を熱弁。ルラ氏は同年4月のBRICS銀行(新開発銀行)の総裁就任スピーチでも『いったいどこの誰が、ドルが世界通貨として国際取引に使われなければいけないと決めたのか?』『なぜブラジルと諸外国との貿易にドルを使わなければならないんだ?』など発言し、多くの新興国首脳が同氏の発言に共鳴したといいますからね。はたして、トランプ氏がお得意のディール(直接取引)で、どこを落としどころにするのか、世界の視線が注がれています」(同)
各国首脳とのディールを好むトランプ氏だが、相手が独裁者であればトップダウンで話が早いため、今後はプーチン氏や習近平氏らと積極交渉に臨んでいくことになるだろう。ただディールとは、相手から取る代わりに、こちらからも何かを与えることが前提条件だ。はたして、トランプ氏はBRICS の各首脳らにどんな餌をぶら下げるのだろうか。
(灯倫太郎)