麻薬使用で無期限活動休止、若手芸人が麻薬に手を出した理由

 未来ある若手お笑い芸人が、麻薬MDMAを使用した罪で逮捕・起訴されていた。すでに所属事務所は「無期限活動休止」の処分を下したが、気になる判決は…。気になる薬物の入手ルートから出頭までのいきさつをお笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火がリポートする。

 東京地裁で先月、お笑い芸人が被告人の刑事裁判が行われました。事件自体がニュースにもなっていないので、傍聴人は数人だけという寂しい法廷でした…。

 罪名は、麻薬及び向精神薬取締法違反。被告人は、20代の男性芸人。起訴されたのは、今年の7月29日に東京都内で麻薬(メチレンジオキシメタンフェタミン)を使用したという内容。検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学卒業後は作業療法士として働き、それと並行して芸人をやっているそうです。

 犯行当日、被告人は友人から錠剤麻薬を勧められたので、飲み込んだらしい。被告人は使用直後の午前4時55分に警視庁新宿署に出頭し「薬物をやりました」と自首をし、罪を認めたので逮捕というのが事件の流れになります。

 取り調べに対して被告人は「仕事や将来のことで気持ちが落ち込んで使用した。今回のMDMAの他に、大麻やコカインも使ったことがある」と供述しているそうです。

 弁護人からは反省文や情状証人などの証拠請求は無く、いきなりの被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人「今回、MDMAを使ったきっかけは何ですか?」

被告人「元々の職場のナカジマ(仮名)と会うことになりまして、シーシャバーで会って談笑してたんですが『タマ、やりませんか?』と言われて、その場の雰囲気を壊したくないってのと、将来の仕事で不安になっていたのでやってしまいました」

 断るとその場の空気が悪くなると思ったから使用したというのは、その場その場の空気を読むことが重要な芸人ならではの理由ですね。

弁護人「元々の職場のナカジマってのは?」

被告人「以前働いていた風俗のバイトの先輩です」

弁護人「タマというのはMDMAのことですよね?違法だというのは知ってましたか?」

被告人「はい。小中学校の授業で知ってます」

 個人的には大人になってからMDMAという名前も存在も知りましたが、20代の人は義務教育で習っているんですね。ちょっとカルチャーショックです。

弁護人「違法と知ってて何故使ったんですか?」

被告人「場の空気を壊したくなかったので…」

弁護人「実際に使った場所はどこですか?」

被告人「シーシャバーから新宿のクラブに向かうタクシーの車内です」

弁護人「量は?」

被告人「錠剤を1錠です」

弁護人「MDMAは今回が初めて?」

被告人「はい」

弁護人「自分から飲みたいって言いましたか?」

被告人「言ってません」

 あくまでも元のバイト先の先輩に勧められて、空気を壊さないために断らなかったと。

弁護人「飲んだ後、どんな効果がありました?」

被告人「1時間で効果があるって言われました。タクシーで行った先のクラブで、椅子に座っているだけで汗をかいたり、瞳孔が開いたりしました」

弁護人「その後に警察署に自首したのは何故ですか?」

被告人「罪を償わなければ、という思いがあったからです」

 その場にいた人が告げ口をしなければ違法薬物の使用は発覚しなかったかも知れませんが、被告人としてはそれは許せなかったんでしょう。芸人は真面目な人物が多いなんて話を聞きますが、被告人の自首のエピソードもそれに当たるかも知れませんね。

弁護人「ナカジマとの連絡はどうなってますか?」

被告人「LINEをブロックしているので連絡取れません」

弁護人「再犯しないために今後気を付ける事は何ですか?」

被告人「風俗の仕事は一切しません」

 風俗の仕事が違法薬物に直結はしないけど、被告人の場合はナカジマとの出会いの場になっちゃったわけですからね。風俗の仕事は懲り懲りといったところでしょうか。

弁護人「今、芸人をやってると。そもそも芸人を目指したのは?」

被告人「大学にいる時からやりたかったんですが…。それで一度就職しましたが、それでもやりたくて、ですね」

弁護人「それだけやりたかった仕事ですけど、今後はどうするんですか?」

被告人「芸能活動の方は無期限の休止と事務所の方から…。作業療法士の方は休職扱いになっています」

 とりあえず事務所も今回の事件は把握していて、クビにするんじゃなくて無期限活動休止という処分にしたようです。無期限活動休止って言われると無期懲役みたいな響きもあるので厳しい処分かなぁと勘違いしそうになりますが数年なのか数週間なのかハッキリしないのであいまいなんですよね。クビじゃないので事務所としても才能があると認めているし、被告人としても芸人を続ける意思があるんでしょう。

 続いて検察官からの質問です。

検察官「MDMAって買ったモノですか?」

被告人「いや、友人が売人から買ってきてくれたので、後でお金を渡しました」

検察官「いくら?」

被告人「1万4000円です」

 てっきりナカジマが持ってるMDMAをタクシーの中で手渡して来たのかと思いきや、その場にいた友人が売人のところへ買いに出掛けて、戻ってくるのを待って、MDMAの代金を支払ってから使ったということですね。場の空気を壊したくなかったとは言うけど、MDMAを勧められてから使うまでそれなりの時間が流れてたんですね。きっと場の空気はその都度変わっていたのでは…。

検察官「将来の不安と場の空気を壊したくなかったというのが理由ですか?」

被告人「はい、それで判断力が鈍ってました」

検察官「…鈍ってた?」

被告人「視野が狭まって、普段しないような判断をしました」

検察官「ふ~ん…。で、不安は解消されました?」

被告人「いえ、されませんでした」

 MDMAに不安を解消する薬理効果は無いようです。仮に瞬間的にでも不安を忘れられるとしても、芸人という職業の不安定さは揺るぎないものですからね。続ける以上は将来の不安からは逃れられないかも知れませんね。

検察官「あとね、取り調べでは他の薬物も使っていたと答えてますね。大麻は今までに何回使用してますか?」

被告人「2回です」

検察官「場所は?」

被告人「今回行ってたシーシャバーです」

検察官「コカインは何回使ったことあります?」

被告人「1回使用しました」

検察官「場所は?」

被告人「それもシーシャバー…」

 今後風俗関係の仕事はしないって約束してたけど、被告人が本来約束すべきはシーシャバーに近寄らないことでしょ。最後は裁判官からの質問です。質問はたった1問。

裁判官「芸人の方は続けると。芸能の先輩からね、薬物を誘われても断れるんですか?」

被告人「はい!今回のことで仕事でお世話になってる人に迷惑掛けたので、誰からの誘いでも断ります」
 
 と、違法薬物には2度と手を出さないと宣言です。それにしても、これだけコンプライアンスが厳しくて、SNSによる監視社会の中で薬物を勧めてくる芸人なんて存在しない気もするけど。

 このあと検察官が懲役1年4月を求刑して、初公判は閉廷です。

 そして10月5日、被告人に判決が言い渡されました。結果は、懲役1年4月執行猶予3年。前科も無く、自首も成立したのが執行猶予を付けた理由だそうです。そうなると、無期限活動休止という事務所の処分の方が厳しい気もしますね。3年以内に活動再開する可能性もあるかもしれません。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

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