ロシア国内から北朝鮮へと向かう5両に連なった列車。ところが、翌日その列車が北朝鮮で大量のコンテナを積載し、再びロシア国内に戻っていった——。米政府が、緯度・傾倒など明確な地理情報を明示した、ロシアと北朝鮮との「武器取引」の決定的瞬間を捉えた衛星写真を公開したのは20日のことだ。
記者会見に臨んだ米国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は、画像は昨年11月18日と翌19日に撮影されたものだとして、北朝鮮が武器を供与しているのは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」と断定。同グループを国際犯罪組織に指定し、関連ネットワークを対象に追加制裁を科す予定であると発表した。
ロシアウオッチャーが解説する。
「実は、ロシアによるウクライナ侵攻後、北朝鮮が鉄道や陸路を使ってロシア側へ兵器提供するケースが急増。米政府は先月にも北朝鮮からロシアへの歩兵用ロケット、ミサイルなどの武器弾薬販売を明らかにしています。米政府筋によれば、今回北朝鮮からロシアへ渡ったのは主に携帯式ロケット弾やミサイルなどの兵器で、しかも発注したのはロシアの正規軍ではなく民間軍事会社だったことから、会見でカービー氏は『ワグネルは残虐行為と人権侵害を続けている犯罪組織だ。ワグネルを援助する者を特定し暴露していく』と、ワグネルと取引のある各国企業などを徹底的に調べ上げ、制裁対象とするとしています。裏を返せば、ワグネルがそれだけこの戦争で存在感を増しているということです」
今回の米政府による「国際犯罪組織」認定に対し、当然のごとくワグネル側は猛反発。
「同社創設者プリゴジン氏は21日、ホワイトハウス高官に対し『我々が犯した罪が何なのかをきちんと明示せよ!』という趣旨の書簡をSNS上で公開し、やれるものならやってみろ!とばかりに、米政府を挑発しています。正直、ワグネルは中東諸国やアフリカなどにもアンダーグラウンドのネットワークを張り巡らせているため、米国による制裁がどこまで影響を及ぼすかは未知数。ただ企業である以上、資金源が凍結されれば、傭兵への給与支払いにも影響が出ることは必至。今回の兵糧攻めがどう効果を表すか。おそらくプーチンも気が気ではないことでしょう」(同)
とはいえ、記者会見で「現在ウクライナにはワグネルの戦闘員が約5万人派遣されており、うち1万人は契約兵、4万人は囚人」とカービー氏が語っているように、資金源を絞られても、給与が不要で赦免目的の囚人志願兵が増加することは考えられる。ロシア国民にとっても、まだまだ悩ましい日々が続くことは間違いない。
(灯倫太郎)