7月8日、午前11時31分、奈良県・近鉄大和西大寺駅前で2発の銃声が響いた─。その後、実行犯とカルト教団のただならぬ関係がクローズアップされ、政治家とのズブズブの関係が次々と暴かれた。「政治とカルトの闇」を20年追及するジャーナリスト・鈴木エイト氏が「カルト動乱イヤー」を語り尽くした!
─7月8日の安倍晋三元総理の暗殺事件が大きな節目になりましたが。
そうですね。でも、最初はまさか事件に教団が関係しているとは思わなかったので、これまで自分が追ってきたネタが表に出ないまま終わってしまうのだろうなと諦めていたんです。ところが、事件後ほどなくして警察関連の記者から電話があり、容疑者の動機に統一教会への恨みがあったと聞きました。そういえば、いちばん最初に電話をもらった著名人はジャーナリストの鳥越俊太郎さん(82)でした。事件の背後に統一教会が関係しているとキャッチされ、人づてに僕の連絡先を聞いて直電をくれました。それまで面識がなかったので本人かどうか半信半疑でしたが、これは忙しくなるなと思いました。
─その後、テレビ・ラジオなど連日、声がかかるようになりました。
実際にテレビに出るようになったのは7月の後半からです。最近はだいぶ出演も落ち着いてきましたが、名前のせいか、最初はテレビに出したら放送禁止用語を連発する突撃系YouTuberではないかと警戒されていたみたいです(笑)。
─事件後のブレた対応で岸田文雄総理(65)の支持率は急落していきます。
ただ岸田総理だったからこの問題は進んだ面もあると思います。もちろん岸田総理にしても支持率が下がっていなければ「質問権」の行使など踏み込まなかったでしょうけど。仮に、安倍派の議員や菅義偉氏(74)が総理だったらここまで進まなかった。「質問権行使」は岸田総理にとっては小さな一歩でも、カルト業界では大きな一歩です。加えて内容が不十分なザル法とはいえ、救済新法も決まり、全体的には解散命令請求に向かういい流れになっている。
─「今後関係を断つ」と旧統一教会に宣言した岸田総理を評価していますか?
いやいや、肝心の政治家への追及が全くなされていません。岸田総理が中途半端なのは、どういう問題のある教団なのかを一切定義しないまま、ただ関係を断つと言っている点です。深く追及すれば、身内の政治家に責任が及ぶことになる。そこで、自民党内でお手盛りの「点検」を行い、救済新法と解散命令請求で幕引きを図ろうとしているのが見え見えです。
─岸田総理は、この問題の中心にいる安倍元総理の調査に関しても消極的ですが。
岸田総理は「亡くなって、本人に当たれないから限界がある」というが、最初から限界を設定するのはおかしな話です。石破茂元幹事長(65)は「国民の理解は得られない」と発言しています。残っている材料だけでも検証すべきですが、このままでは安倍事務所は年内で解散し、全てがうやむやになるだけ。安倍さんに全てをおっかぶせて逃げようとしている奴まで出てくるかもしれません。
<旧統一教会を巡るこの半年の動き>
7月8日:安倍元総理が銃撃事件で死去
7月11日:教団側が容疑者の母親は会員と認める
7月12日:全国霊感商法対策弁護士連絡会が会見。「信者2世」問題が注目に
7月14日:岸田総理が国葬実施を表明
8月2日:茂木敏充幹事長が「一切関係ない」と組織的関与を表明
8月10日:内閣改造を実施。山際大志郎経済再生相が留任
9月8日:自民党「点検」で179人の国会議員が教団との関係を認める
9月27日:安倍元総理の「国葬」を実施
10月17日:岸田総理が文化庁に「質問権」行使を指示
10月24日:山際経済再生相が辞任
11月22日:文化庁が旧統一教会へ「質問権」を行使
12月10日:救済新法が成立。国会閉会
鈴木エイト:滋賀県生まれ。日本大学卒。ニュースサイト「やや日刊カルト新聞」副代表、主筆を歴任。主にカルト宗教、カルト2世などのテーマで執筆。今年9月に刊行した『自民党の統一教会汚染追跡3000日』(小学館)は8万部を超えるベストセラーに
*週刊アサヒ芸能12月29日号掲載