世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「阪神は『虎メダル』をやめたらどや」

 阪神の「奇跡の逆転V」は、コロナ禍で完全にかすんでしまった。後半戦のスタート直後は首位ヤクルトへの追い上げムードが高まりながら、急失速。最大借金16を完済して、貯金3まで行ったところで、泥沼の連敗が始まった。8月16日のヤクルト戦(神宮)では、不振の佐藤輝を4番から外し、エース・青柳を先発に立てながら、ついに7連敗。残り33試合でヤクルトとのゲーム差は11と開き、17年ぶりの優勝は絶望的となった。

 痛かったのは、大山、近本、中野の主力3選手がコロナで離脱したこと。どこのチームもコロナで苦しんでいるから言い訳はできない。でも、矢野監督からすれば「よりによって、この3人が‥‥」という感じやと思う。不動の1番・遊撃の中野、12球団でただひとりフルイニング出場していた3番の近本、ポイントゲッターで好調だった大山。1人欠けても痛いのに、3人まとめていなくなり、得点力はダダ下がりとなった。

 4番を任せていた佐藤輝も苦しんでいる。「俺が打たなアカン」と気負いすぎたのかもしれん。打てなくなると雑音が多くなるのが阪神の4番の宿命。フォームがどうとか、配球がどうとか、いろんなことを言われる。それでもコロナ以前なら、不振でも試合後に飲みに行ったりして気分転換もできたけど、今は遠征先でもホテルに籠もりっぱなし。余計にいろんなことを考えるから、悪循環に陥ってしまう。

 不振脱出にはシンプルに「来た球を打つ」感じで打席に立つのが一番なんやけどな。シーズン中、試合に出ながらフォームを変えても簡単に成功するはずがない。それができるなら2軍の選手もみんな打てるようになる。フォームを改造するのなら、オフの間に徹底的にバットを振り込んで体に染み込ませるしかない。今やれることは、タイミングをしっかり取ることだけ。速い球に差し込まれがちやから、打ち返せるように早めに始動すればいいと思うんやけど。

 阪神の負けが込んでいる原因は、打撃だけでなく、守備にもある。毎試合のようにエラーが出ていたら、勝てるわけがない。特にしょうもないスローイングミスが多すぎる。そういう時に必ずテレビカメラがベンチの矢野監督の表情を抜く。精神的にきついのはわかるけど、目がうつろで暗すぎる。もともと、開幕から歴史的なズッコケスタートとなりながら巻き返したチーム。「絶対に下を向かない野球」を標榜してきたんやから、最後まで実践してほしい。

 家のテレビでナイターを2画面で見ていると、2位に浮上したDeNAのベンチは阪神と対照的な勢いを感じる。ヤクルトを追いかけるという気持ちがベンチ全体に漲っている。負けた時もほんまに悔しそう。勝って喜び、負けて悔しがりと、自然な感情が出ている。

 阪神はホームランを打った選手がベンチに帰ってきた時に首にかける「虎メダル」をやめたらどうやろ。負け試合の焼け石に水の一発でメダルもくそもない。ファンが作ってくれたものを順番に使用しているファンサービスらしいが、うれしいのは作ったそのファンだけ。やっぱり一番のファンサービスは勝つことや。「負けている時にメダルなんかいらん」と言う気概のあるヤツが出てこんかな。CS出場をかけて、ここからがほんまの頑張り時なんやから。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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