日本の預金1000兆円が“国外逃亡”「キャピタルフライト」の危機とは?

「平均貯蓄額1880万円」。2人以上の世帯の平均貯蓄額だそうだ。総務省が5月10日に発表した21年の家計調査で報告された数字で、前年比で5%増えて比較可能な02年以来最高額となったという。

 これが60代ともなると、負債を上回る純貯蓄額は2323万円で、やはりあるところにはあるということか。「老後2000万円問題」というのがあったが、どうもこの数字を見ると、2000万円というのは1つのメルクマールなのかもしれない。

 一方、4月28日の東京外国為替相場で一時130円突破という記録的な円安を記録して、「悪い円安」論議が起きているが、その後も120円台後半で米ドル/円相場は張り付いている。そこで最近よく経済マスコミなどで目にするのが「キャピタルフライト」の文字。日本人はほとんどが円建て預金で貯蓄を行っているが、こう円安になると円を持っていても価値がなくなるので、家計が海外資産の形で国外に逃亡するようになるのではないかとの見方だ。

「1ドル130円というのは02年4月以来20年ぶりという記録的な円安で、この時もキャピタルフライトの可能性が囁かれました。市場関係者の間では『とうとうオオカミが来るか』などと言われています。なぜオオカミなのかと言えば、来る来ると言って未だに起きていないのが家計のキャピタルフライトで、結局20年間来ることはなかったから。ただ、その20年前と状況は似ているところがある一方、大きく異なるところもあって、だから『今度こそ来るのではないか』と言われているのです」(経済ジャーナリスト)

 20年前と同じなのは、ゼロ金利ということ。違うのは、デフレではなくインフレ局面にあるということだ。ゼロ金利でお金が増えなくてもデフレでモノが安いのなら問題はないが、今は多くのものが高くなっている。その分、実質的には資産は目減りしているということになる。

 ヤマハやTDK、村田製作所といった日本の代表的なモノ作り企業は90%が海外売上でもっている。ユニクロのファーストリテイリングやセブン&アイHDといった小売りでも半分近くが海外売上だ。企業の場合、海外直接投資が大きく、既にキャピタルフライトは行われている。日本国内でもはやモノは売れないからだ。

 同じように家計も海外に移動しそうなのが今の状況だ。石油が高く、食料も毎日何かしら値上げが発表されている。弱くてかつ増えない円を持っていても仕方がないと考えるのは普通だろう。

「5月2日の毎日新聞の朝刊に、大和ネクスト銀行が米ドル定期預金のキャンペーン広告を打ったことが話題になっています。日本の1カ月定期預金の年利が0.003%で、キャンペーンで紹介されている金利は年8%でした。今年のGWは久々にハワイ観光が戻ってきましたが、例えばランチは2000円ほどと、ハワイの物価は日本の約2倍です。何をするにも高くてビックリした人が多かったんじゃないでしょうか」(同)

 かつては腐っても日本円だっただけに円を持っている意味はあった。ところが現在は円が弱いだけでなく、日本人の賃金は韓国にも抜かれた。4月20日に財務省によって発表された21年度の貿易統計速報では、貿易収支は2年ぶりの赤字で5兆3748億円のマイナス、赤字幅は過去4番目という悪さだ。これに円安と資源高が加わって、22年度は42年ぶりに経常収支が赤字になる可能性もある。

 個人資産約2000兆円の半分の1000兆円は円建ての現預金で、外貨は150兆円しかない。このうちわずか1%が外貨に移動しただけでもさらなる円安圧力になって円の価値が下がり、するとさらに資産が逃亡して……という下降スパイラルが働きかねない。これまではなかったことだが、現状のままではいつ起こってもおかしくないことなのだ。

(猫間滋)

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