致死毒で被害者続出の「イモガイ」が秘める“驚くべき効能”とは?

 春から初夏にかけては潮干狩りのシーズン、夏場も海水浴などで海に訪れる人が増えるが、実は砂浜や浅瀬には毒を持った生物も多く、毎年のように事故も起きている。

 有名なのはクラゲだが、それ以上に厄介なのがイモガイ。里芋のような形をしていることからそう呼ばれ、その種類は500種以上。浅瀬から深海に生息するものまでさまざまだが、歯舌という器官から毒液が分泌され、生物毒としては極めて強い致死性を持った種類も多い。実際、世界中で死亡事故が毎年のように報告されている。

“海の殺し屋”なんて物騒な異名があるイモガイだが、その毒を有効利用できないかと研究を進めていたのが医学界。04年に米国食品医薬品局(FDA)に認可された「ジコノタイド」は、イモガイ毒由来の成分を持つ強力な鎮痛剤だ。

「日本では未承認ですが、海外では末期がんなどの緩和ケアに大きな効果を発揮しています。昨今、モルヒネに代わる痛み止めとして国内の医療関係者からも注目されています」(医療ジャーナリスト)

 しかも、効能はこれだけではない。糖尿病治療に欠かせない血糖値を下げる作用で知られるインスリンはイモガイ毒にも含まれているのだが、現在医療現場で用いられているものよりも即効性があるというのだ。

 このほど米国のスタンフォード大とユタ大、デンマークのコペンハーゲン大の合同研究チームがイモガイ毒から抽出した成分から「新型インスリン薬」の開発に成功。米学術誌『ネイチャーケミカルバイオロジー』に論文が発表されている。

「ただし、臨床実験や改良が必要なため、認可はまだまだ先でしょう。それでも実用化への目途が立ったのは大きい。糖尿病の方にとっては朗報と言えるでしょうね」(同)

 “毒と薬は紙一重”というが、まさのその通りのようだ。

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