オリックスの宮内義彦オーナーが今季限りでの退任を発表した。1996年以来、25年ぶりのリーグ優勝を飾って「一区切りできた」という。1988年に阪急から球団を買収して今年で34シーズン目。もう、そんな時間が流れたんやな。
僕にとっては愛する阪急ブレーブスがなくなったのは残念やけど、個人的な感情抜きで考えると、オリックスに球団を買ってもらえてよかったのかもしれん。当時の阪急にとっては「宝塚歌劇団」も「ブレーブス」もお荷物になっていた。どちらかは売られる運命やったということ。新しい親会社となった「オリエント・リース」は、それまで聞いたこともなかったけど、球団買収後に「オリックス」に社名を変更。今では誰もが名前を知っている大企業となった。僕が大ファンの宝塚歌劇団も、今ではチケット入手が困難なほどの人気ぶりとなった。
オリックスの球団経営はケチックスとファンから言われたこともあったが、宮内さんの野球への情熱は本物やった。オーナーになって最初の頃は、球団チームと担当記者チームで草野球して、自ら投手を務めていた。本業が忙しいはずなのに、時間さえあれば球場にも足を運んでいた。来ている時は、球団職員がピリピリしているから雰囲気で分かる。でも、観戦した試合はよく負けていた気がする。負けた時しか新聞記者が話を聞きに行かないだけかもしれんけど、歯に衣着せぬ発言が、関西では面白おかしく取り上げられていた。
忘れられないのは95年の阪神・淡路大震災の時の英断。1月17日の震災で神戸の街はとても野球ができる雰囲気ではなかった。球団側は本拠地開催をあきらめていたらしいけど、宮内さんが「今こそ神戸でやらないと意味がない。お客さんが来なくてもいいから、スケジュール通りにいこう」と鶴の一声。仰木監督のもとでイチローらが一丸となったチームは「がんばろうKOBE」のワッペンをユニホームに縫い付けて、映画のような快進撃。阪急の時以来11年ぶりのリーグ優勝を果たして、翌年には日本一を達成。チームは震災からの復興のシンボルとなった。
イチローというスーパースターをポスティング・システムでマリナーズに移籍させたのも、大きな話題になった。その後のイチローの大リーグの歴史を塗り替える活躍を見れば、FAを待たずに送り出したのも結果的に正解やった。
オーナーとしては異例のシーズン前の勇退予告は、オリックスとして2度目の日本一への強い思いがあるんやろな。「何が何でも日本一になって胴上げしてくれないかな。選手がどう思うか分からないが」の言葉は本音やと思う。2月13日に春季キャンプを視察した際は「もう昨年までの話は歴史になった。新しい歴史をこれから作ってほしい。昨年勝ったというのも封印して」と、日本一へ向けての訓示を行ったという。
オーナーのことを置いといても、今年はほんまに大事な1年になる。久々の優勝で注目度が上がり、ファンも確実に増えた。リーグ優勝に満足することなく、今度は日本一を目指さないとアカン。山本由伸や吉田正尚、ラオウ杉本ら、お客さんを呼べるスターも揃っている。「日本一の喜び」を知って、親会社のお荷物にならない常勝軍団になってほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。