大阪ビル放火で取り沙汰される「孤独」問題、英国では“社会的処方”で対策

 大阪・北区のクリニックが入るビルが放火された事件では25人が死亡。犯人と見られる谷本盛雄容疑者(61)の自宅からは19年に36人が亡くなった「京アニ事件」への関心を窺わせる形跡も発見されて、その計画性と悪質さが際立つ。

 犯行動機は何なのか、谷本容疑者の人物像がクローズアップされているが、そこでよく言われるのが、容疑者が抱えていた「孤独」についてだ。

「40年ほど前に母親が亡くなりその10年後に父親が他界しています。以来、兄とは連絡を取っていませんでした。仕事は板金工場で働いていましたが、08年に妻と離婚したことで独り身に。本人は復縁を希望していたのですが元妻には受け入れてもらえず、そうして徐々に孤独を深める中、11年には無理心中を図り長男を刺して懲役4年を食らっています。出所後は定職には就けず、事件を起こした心療内科クリニックに通っていました」(社会部記者)

 そうした一連の経緯や「道連れ」を求めたがる谷本容疑者の動機を読み解く鍵として、癒しがたい「孤独」「寂しさ」があったのではないかというわけだ。

 実はいま、日本社会でこの「孤独」というものが深刻な社会問題となっている。それは菅政権下の今年2月に日本初の「孤独・孤立担当大臣」が置かれたことでも明らかだ。

 話としては以前からあった。政府は40〜64歳の「就職氷河期世代」を含む層に引きこもりが多いことを問題視していた。そこで安倍政権時代の19年に実態調査を行ったところ、その数61万3000人に上ることが判明した。

 引きこもりだから生産活動を行っておらず、一方、社会保障費はかかる。さらにその構造は80代の親が50代の子供の生活を支える「8050問題」にもつながり、となるとこれは社会全体が抱えるリスクに直結する。孤独・孤立と引きこもりは関連性が高く、だから菅政権以来、担当大臣が置かれているわけだが、実はこの任命は世界で2番目のことで、イギリスでは既に18年に設置されている。

「当時のメイ首相は『孤独は現代の公衆衛生上、最も大きな課題の1つ』語っていて、周囲はイギリスのEU離脱を巡って国論が2分していましたが、孤独対策に乗り出すことでは国が一致しました。そして20年度からは小中学校の授業に孤独について考える時間が組み入れられ、23年までには医療システムとして『社会的処方』なるものが適用される予定です。これは医療機関から『孤独』との診断を受けたら、地域コミュニティーや必要な施設に繋いでくれる人が付いて、共に孤独のケアを受けられるような仕組みになります」(NPO法人関係者)

 この繋いでくれるサポート役をリンクワーカーといい、日本でも一部の地域・施設で導入され始めている。孤立や孤独は深刻な社会問題であり、その対策は今後ますます重要度を増していくはずだ。

(猫間滋)

*写真はイメージ

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