”黒い吉野家”化が着々!?「早い、安い、旨い」からの決別戦略とは

「黒い吉野家」。看板はあのお馴染みのオレンジ色ではなく黒。店舗外観もシックな色調で落ち着いた雰囲気。中に入ると、インダストリアルなデザインでカウンターだけではなくテーブル席もあって、天井には南国風のオシャレな店には定番のシーリングファンまで。メニューもだいぶ異なる。牛丼が中心なのはもちろんだが、唐揚げメニューも充実していて、はてはドリンクバーにデザートまである。これが登場した時には、ユーザーから「まるでカフェのよう」という声が上がったように、その通りカフェのようなのだ。

 吉野家によれば、全体で約1200ある店舗のうち、ざっと300店舗弱で、「あまり多くないのが現状」(吉野家)というが、今後は一気に吉野家が「オレンジ色」から「黒色」に変わりそうだ。

 10月13日に発表された吉野家の21年8月期中間決算は、売上高こそ前年の約820億円から740億円ほどにまでダウンしたものの、純利益で前年約57億円の赤字だったものが31億円の黒字に転換して、どうやらコロナの苦境から脱しつつある。

 そこで注目されるのが、ポスト・コロナのリベンジ需要をどうやって取り込み、また、ニューノーマルの時代でどう変わっていくのかの戦略。それがどうも吉野家の場合だと、「はやい、やすい、うまい」の看板を付け替えての、黒い吉野家のような“カフェ化”にあるようだ。

「決算発表資料にはこうあります。『収益性の改善に伴い、改装投資を抑制しておりました国内吉野家の次世代モデル『クッキング&コンフォート』(C&C)への改装を順次推進しており、積極的に改装店舗数を増やしていきます』。そのC&Cこそが黒い吉野家なんです。その1号店が東京・恵比寿に出来たのが2017年なので、吉野家としては競合他社のみならず外食全体との差異化を図るためにC&C戦略を練っていたことになります。それがコロナ禍でいったん止まっていましたが、収益性でひと段落ついたところで再びカフェ化に手が回るようになったということです」(経済ジャーナリスト)

 吉野家のHPを見ても、「快適な空間」へのこだわりが取り上げられている。そのこだわりをさらに加速化させる計画なのだという。

「こういった吉野家の変化は、キャッチフレーズの変遷を見ても伺えます。吉野家の創業は1958年で、1956年の経済白書で『もはや戦後ではない』と謳われたわずか2年後です。日本全国にようやくモノが揃うようになって、『うまいものを早く食べたい』という人々の欲求が、いつしか『はやい、うまい、やすい』の順番になって、スピードを求めるような時代に変わりました。まさに高度経済成長からバブルまで駆け上がった日本経済を反映しているとも言えます。それが2000年代に入ると『うまい、はやい、やすい』と、質や満足性を求めるキャッチフレーズに変わった。もはや早いのは当たり前ということもあるのでしょう、顧客満足度重視に転換したともいえます。そして今度はさらに『快適さ』を追求するという戦略に打って出ているわけです」(前出・ジャーナリスト)

 そこには当然、吉野家ではあまり見ることのない女性客の取り込みの狙いがあるのは明らか。となれば、「デートで吉野家」が普通の時代になるのかもしれない。

(猫間滋) 

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