小さな間口から店内に入ると、店のいたるところに美空ひばりや山口百恵、西城秀樹、沢田研二などの、昭和のスター達のプロマイドがぎっしり並ぶ——。
東京・浅草の新仲見世商店街に店を構えるマルベル堂が今年、創業から100年を迎えた。プロマイドの売り上げが人気のバロメーターと言われた時代。「プロマイドといえば、マルベル堂」として、当時の俳優や歌手のだれもが、そこに自分のプロマイドが並ぶことを「スターとしてのステータス」として、マルベル堂はまさに憧れの場所だったという。
だが、時代の流れとともに写真がアナログからデジタルに移り代わり、音楽番組の激減によりアイドルブームも衰退。結果、写真をコレクションする時代は終焉を迎えた。
ところが、昨今の昭和レトロブームの到来で、時を経て再びマルベル堂のプロマイドが脚光を浴びている。その起爆剤となったのが2014年にスタートした一般客向けの撮影プラン「マルベル80’s」だという。
「大正10年、浅草にマルベル堂が誕生して以来、撮影したスターは約2800人。店内に所狭しと置かれるプロマイドは8万5千版超と言われますが、このプランは数々のスターを撮影してきた同じスタジオで、昭和を感じさせる小道具をバックに、70〜80年代風のアイドル衣装などを身に着け(2パターンの衣装が借りられる)、写真撮影してもらえるというもの。しかも、撮影、スタジオ使用、衣装レンタル、プロマイド(20枚以上)に加え、CD-ROMに落とした撮影データ込みで、価格は1万3500円。特に昭和を知らない20〜30代の女性に大人気だということです」(スポーツ紙記者)
使用できる衣装は、アイドル風ものから、学園ドラマもの、トレンディ・ドラマ系に至るまで何でもあり。70〜80年代に大流行したスタジャンやトレーナー、ケミカルウォッシュ・ジーンズなどのカジュアルファッションも人気が高いという。
「利用するお客さんのニーズも多様で、『昭和のアイドルに憧れて』と1人で訪れる人もいれば、当時の世相を反映する『ツッパリ&学園のマドンナ』『アイドル&親衛隊』等々、さまざまなシチュエーションを楽しもうとカップルで来店するお客さんも多いのだとか。もちろん20代〜30代と言えば、昭和など全く知らない世代。ですから、あの時代に戻りたいではなく、知らないからこそ雰囲気だけでも体験したいという思いがあるのかもしれませんね」(同前)
ちなみに、「ブロマイド」とは印画紙を意味するが、マルベル堂では創業当初から「スターを販売目的で撮影した写真」のことをプロマイドと呼んでおり、前出の記者によれば、
「国内スター第1号は創業した100年前の1921年5月に撮影された栗島すみ子だといいますからね。文字通り、マルベル堂の歴史そのものが、日本におけるプロマイドの歴史と言って間違いないでしょう」
夏休みも残り僅か。コロナ禍で旅行にも行けない昨今、昭和の雰囲気に囲まれながら自身のプロマイドを撮影してもらう、そんな楽しみ方もあるかもしれない。
(灯倫太郎)