土石流に混じった不自然な物質について、山梨大学工学部土木環境工学科防災研究室の鈴木猛康教授が補足説明する。
「ドス黒さから産業廃棄物が混ざっているのが一目でわかります。実際に土砂の細部を見てみると、鉄筋やコンクリートのガラが混ざっていました。これらの重みが土石流の破壊力にも影響を与えているでしょう」
また、盛り土同様、疑いをかけられているのが、土石流発生場所付近に設置された太陽光発電施設だ。7月9日に、静岡県と林野庁が公表した調査結果では、「直接的な影響はない」と判断が下されていたが、
「全くないとは言い切れません。太陽光パネルを設置するためには、山の木を伐採・伐根する必要があります。樹木を失った山は保水能力が著しく低下。雨が降った際に水分を吸収するのは地面に50㌢ほど出ている樹木の根の部分。ここが水を吸収して地下水として一気に流れるのを防いでくれます。水を多く含んだ斜面は重量も重くなり滑る力も強くなる。今回の土石流と因果関係がないはずがないんです」(鈴木教授)
伊豆山地区のような「土石流危険渓流」は氷山の一角に過ぎない。国土交通省のハザードマップで表示されている「地すべり」や「土石流」を見ただけでも全国各地で色濃く危険度が示されている。中でも要注意キーワードとして浮上したのが「緑が丘」という地名だ。
「新潟県中越沖地震や東日本大震災で地すべりの被害を受けた宅地や団地は『緑が丘』という地名が多かった。山の尾根を削って得た土を谷に埋めた『谷埋め盛り土』と呼ばれる宅地造成地で、地震のたびに一定の地すべりが発生します。大雨の影響で地盤が緩んでいるため、よりメンテナンスが必要になりますが、小規模な宅地になると、半ばほったらかしなケースも多い。全国にある地名なので要注意です」(鈴木教授)
さらに、川沿いに住む住民にとって気がかりなデータもある。かつて、河川の氾濫を食い止めるために造られたはずの堤防も、ここ最近の「ゲリラ豪雨」に対しては全くの無力だということが明らかになりつつあるのだ。
「豪雨の定義は48時間で600ミリ〜800ミリの降雨量を想定しなくてはなりません。ところが、河川の堤防はせいぜい300ミリ程度しかカバーできません。05年から国土交通省は、新たに堤防を作って洪水を防ぐのは難しいと考えて、避難経路などのソフト面を充実させて人命を守る方針を立てています」(鈴木氏)
もはや堤防は、ゲリラ豪雨時代を迎えた日本列島では、安全装置として機能しないというのだ。名作ドラマ「岸辺のアルバム」のラストシーンのような、自宅が濁流に流される危機は、今まさに身近に迫っているのだ。
*「週刊アサヒ芸能」8月26日号より。(3)につづく