米「ニューヨーク・タイムズ」(電子版)の報道に、全米が衝撃に包まれた—。
というのも、かねてから、キューバや中国駐在の米外交官らが脳に損傷を受ける事例が相次いでいた問題で、なんと、その被害者が130人以上に上ることが判明したというのだ。
5月12日の同紙によれば、ここ5年ほどの間で、聴覚障害や頭痛、めまいなどを訴える外交官や総領事館職員らが急増、なかには米中央情報局(CIA)や国務省、国防総省などの職員が含まれており、同様の被害がヨーロッパやアジアでも確認されているという。
国際ジャーナリストが語る。
「このミステリーが初めて報道されたのは2016年。ハバナに駐在していた外交官とCIA職員など複数の人間が突然体調不良を訴えたことが一部メディアで報じられ、『謎の脳損傷』として注目されたことがきっかけです。ところが、翌17年にも同様の事例が中国・広州でも発生。また、昨年10月には、ロシアを含むさまざまな国を訪問していたCIA職員の一団が同様の症状を訴え、その事実が報道されると、全米を揺るがす大きな騒ぎになっていたんです」
しかも当初、公に確認されていた症例は約60人だったが、今回明らかになったのは130人と、その倍以上。さすがに、この数字にはホワイトハウス関係者らも驚愕したことはいうまでもない。前出のジャーナリストが続ける。
「実は19年に、外国で勤務する米軍当局者が運転する車が交差点に差し掛かったところ、吐き気と頭痛に襲われ、後部座席にいた2歳の息子が泣きだしたものの、交差点から離れると吐き気は収まった、という事例があったんです。で、この事例を受け、より広範な調査が始まったのですが、『米国科学アカデミー』が昨年12月に出した調査報告書によれば、被害者らは何者かにマイクロ波放射を受けた可能性が高いとされ、専門家委員会の報告書でも、マイクロ波などが原因として『最も妥当』という結論が記されています。つまり、何者かによるマイクロ波を使ったテロである可能性もあるということです」
それが事実なら大問題だが、では、いったい誰が何の目的で、そんなマイクロ波攻撃に及んでいるのか。
「国防総省当局者は、19年の事例はロシア軍情報機関の参謀本部情報総局(GRU)が関与した可能性が非常に高いと指摘しています。さらに、一部関係者の間では、他の事例でもロシアの関与を示す証拠が浮上しているという話もある。ただ、国家情報長官室の報道官は『現時点で、原因に関する明確な情報は持っていない』と述べ、バイデン政権としても、現時点では、まだ米国を狙った攻撃なのかどうかの断定はしかねる、というスタンスをとっています。とはいえ、職員の発症者数が倍に増えたことで、政権内部では懸念を示す声が急速に広がっていることは事実。ホワイトハウスをあげて真相究明に乗り出すことになるはずです」(前出のジャーナリスト)
ニューヨーク・タイムズによれば、国家安全保障会議のエミリー・ホーン報道官は、「われわれはこの真相を突き止めることにアメリカ政府のリソースを集中している」と語り、CIAは本件に関する経緯や首謀者などの情報収集のための新たな組織を設立。同報道官は「この組織は、アメリカ同時多発テロ事件後のオサマ・ビンラディン捜索にCIAが拡大した組織と同様の過酷さと厳しさで活動することを目的としている」と、その覚悟を語っているという。
日本でも17日、加藤勝信官房長官が記者会見で、この話題に触れ、現時点では「日本の外交官について、そうした事実は確認されていない」と述べている。だが、脳の損傷はその時は自覚症状がなくても、後になって症状が現れ、後遺症として年々も苦しむケースがある。そんな被害者を出さないためにも、米政府による、一日も早い真相解明を願うばかりだ。
(灯倫太郎)