自衛隊「秘密特殊部隊」の知られざる実力!「三重県の山中で戦闘訓練を…」

 日本国内に特殊部隊があるのをご存じだろうか。04年に結成されたものの、その活動内容はおろか人員や予算についてもまったく極秘にされてきたのだ。「スーパーエリート」だけが選抜される知られざる全貌に突撃してみると‥‥。

 ほとんど話題に上ることがない日本の「秘密特殊部隊」の存在がクローズアップされたのは、1本の記事がキッカケだった。共同通信が1月23日、「自衛官に私的戦闘訓練 特殊部隊の元トップが指導」というタイトルで次のように発信したのだ。

〈陸上自衛隊特殊部隊のトップだったOBが毎年、現役自衛官、予備自衛官を募り、三重県で私的に戦闘訓練を指導していたことが23日、関係者の証言でわかった。訓練は昨年12月にも開催。現地取材で実際の訓練は確認できなかったが、参加者が迷彩の戦闘服を着用しOBが主催する施設と付近の山中の間を移動していた。(中略)自衛官が、外部から戦闘行動の訓練を受けるのが明らかになるのは初めて。防衛省内には、職務遂行義務や守秘義務などを定めた自衛隊法に触れるとの指摘がある〉

 このOBは自衛隊の「特殊部隊」である「特殊作戦群」の初代群長を務めた荒谷卓・元1等陸佐のこと。20年12月26日から30日の日程で開催された合宿には十数人以上が参加したというのだ。

 この翌日、荒谷氏は代表を務める民間団体「熊野飛鳥むすびの里」のブログで、〈参加した自衛官は、休暇を取っての参加であり、自衛隊法に抵触する要素は全くありません〉などと反論。取材記者とのトラブルも指摘する中、注目されたのが、これまでベールに包まれてきた陸上自衛隊「特殊作戦群」の存在そのものだろう。

 実は、その歴史はまだそれほど長くはなかった。

「01年にアメリカ同時多発テロ事件が起きて以降、ゲリラの小規模の部隊による対テロ攻撃など、新たな戦争形態への脅威が強まってくると、対抗するために特殊部隊を求める声が高まり、組織の改編が進められていきました」(自衛隊関係者)

 いわば、当時のアメリカのブッシュ政権が「テロとの戦い」を全面的に打ち出したことに呼応する形で、特殊部隊が日本にも採用されたのだ。

 そして04年3月、習志野駐屯地(千葉県習志野市)に陸上自衛隊唯一の特殊部隊となる特殊作戦群が発足。隊員数は約300人とされ、その初代群長に先の荒谷氏が起用された。

 当時、石破茂防衛庁長官は、発足の意義についてこう語っている。

「1人で何人もの力を発揮する武装工作員から国民を守るためには、それに対抗し得る能力を持った集団が必要だ。短期間の訓練でパーフェクトになるわけではないので、自衛隊全体としても能力を上げるようにしたい」

 防衛庁トップの期待を担った特殊作戦群は「S」などと隠語で呼ばれ、その存在は陸上自衛隊の中でも完全に極秘扱いされたまま。現在も鉄のカーテンに隠されているのである。

 特殊作戦群の異様な光景は、07年3月末に行われた防衛相直轄部隊「中央即応集団」(18年に廃止され、現在の「陸上総隊」の前身)の部隊編成完結式で見らた。

「群長は素顔でしたが、幕僚4人と旗手1人は覆面姿で、かろうじて目元だけがわかる出で立ちでした」(自衛隊関係者)

 任務の特性上、創設時から群長以外は隊員の名前も明かされておらず、式典でも顔をさらすことはない。軍事評論家の潮匡人氏もこう説明する。

「隊員名や編成などを出していないのは、例えば中東において日本人ビジネスマンに対するテロが行われ、人質を救出するような作戦を担うかもしれないから。成功すればいいですが、失敗した時に隊員が人質になることも考えられます。彼らにも家族がいて危険に晒されることも想定し、一切公表していないのです」

 家族や親しい友人にも、任務内容や行き先を口外しない。全てが謎に包まれる特殊作戦群の隊員は、発足時は主に「第一空挺団」の中からレンジャー経験豊富な隊員が選抜されたという。

 特殊作戦群と同じく習志野駐屯地にある第一空挺団は、特殊作戦群が誕生するまで陸自唯一の落下傘部隊で、「最精鋭部隊」として軍事マニアにもファンが多いことで知られている。

「陸自で最も過酷とされるレンジャー訓練は、サバイバル術などの基礎を身につけ、重い荷物を背負った状態で山中をほとんど寝ずに駐屯地まで何日間もかけて踏破するなど、徹底的に精神力を鍛え上げるので脱落者が続出。レンジャー教育課程を修了すると、レンジャー徽章が付与されます。第一空挺団になると空挺レンジャー課程でさらに過酷な訓練を実施し、くぐり抜けた隊員は精鋭無比をモットーに、任務の達成に邁進していくのです」(自衛隊関係者)

 第一空挺団の時点でエリートだが、そこから狭き門の特殊作戦群に選ばれた隊員はスーパーエリートと言えるだろう。ただ、その選抜試験の内容や条件はやはり公開されていない。

 潮氏が特殊作戦群の隊員に求められる能力について語る。

「一般の部隊と特殊部隊の決定的な違いは、役割の違いです。一般の部隊は一人ひとりに与えられている役割は限定され、戦車に乗っている人は操縦するのが仕事で、その訓練をほぼ毎日しています。戦闘機のパイロットは狙撃の名手かといえば、名手である必要はありません。ところが、特殊部隊は少数精鋭のチームで投入されます。特殊作戦群は非公表なので、例えば12人のチームだとすれば、12人全員がほかの11人がやるべき全ての仕事をある程度できる能力が求められます。通信担当の隊員が被弾したら、全員が通信機材の知識を持っていて扱えるとか、狙撃専門の隊員に比べて腕は落ちるけど、全員が少なくとも300メートル先にある的に当てられるというように、それが特殊部隊の強みなのです」

 他国の領土領海に入り、いつ誰がどこで死んでもおかしくない状況で、残された人数だけで任務を遂行しなければならない。特殊作戦群の隊員は、オールマイティーな高い資質が必須なのだろう。

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