盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!
阪神の矢野監督が大仕事をやってのけた。ドラフトの目玉、近大・佐藤輝明の4球団競合で、当たりクジを引き当てた。待望の左の長距離砲やし、球団としては万々歳やな。ソフトバンクの柳田みたいなタイプと聞くし、どうやって育てるか楽しみやね。
まずは守備位置をどうするか。近大の監督は、二遊間にトライさせてほしいと矢野監督に伝えたという。「外野に回れば、近大OBの糸井が追い出されるから」という見方をする関係者もいるけど、確かに大型の二遊間は夢がある。ショートでホームラン王を狙える選手になれば、とてつもない戦力アップとなる。巨人・坂本が代表例やけど、阪神も鳥谷が打てて守れる遊撃手として活躍している時は強かった。
三塁の守備が下手という話も聞かないし、二遊間の適性があるかどうか、来年のキャンプで試してみればいい。内野から外野に回るのはフライの追い方などを学ぶだけで、あとからでもできる。外野から内野のコンバートというのは過去の例をみても少ないから。
でも、佐藤のポジションを気にしているのは、ファン以上に阪神の選手やと思うで。レギュラーで出ているショートの木浪や二塁の糸原は、内心では戦々恐々やと思う。ただでさえ、高卒2年目の小幡が来年はレギュラー取りを狙っているし、大激戦となるのは間違いない。甲子園のスターやった北條も、トレード候補になってもおかしくないし、来年は土俵際と思うぐらいの心構えでやらなアカン。
最近の阪神の球団方針を見てると、温情なしにバッサリいく傾向がある。昨年の鳥谷や今年の福留ら大物だけでなく、中堅クラスもそう。北條と同じ右打ちの上本も戦力外となった。毎年のように故障に泣かされたけど、年齢もまだ34歳。試合になれば、くせ者として力を発揮するタイプやし。他球団での現役続行を希望しているという。毎年、新人が入れば、誰かが追い出される世界。通告された時に後悔しないよう、ユニホームを着ているうちは必死にやらないと。2年目から調子が狂ってしまった高山や、身体能力を生かしきれない江越なんかもウカウカしてたら危ない。
力のある選手が1人入ったらチーム内競争が活発化する相乗効果がある。そういう面でも10年に1人の大物と言われる佐藤の加入は、阪神にとって間違いなくプラスになる。ただし、ルーキーに過度の期待は禁物。特に阪神という環境を考えると、妙な方向に行かなければいいなという不安は常にある。
タイプが似ているといわれる柳田だって、レギュラーになったのは4年目から。毎年、少しずつ力をつけていった。大山だってそう。今年4年目でようやく本物になってきた。過去に大卒でドラフト1位で入った選手も1年目は苦労することが多かった。変化球の切れとか、コントロールとか、大学生とプロの投手はレベルが全然違う。鳴り物入りで入っても、すぐに活躍できるほど甘くはないということ。
特に阪神は、関西のスポーツ紙がキャンプ前から、佐藤で連日1面を作るはず。キャンプではフリー打撃のサク越えの数や飛距離で大騒ぎするやろうし、佐藤自身が勘違いしてしまう可能性がある。熱狂的なファンの期待に応えられるかどうか。楽しみが増えたことだけは間違いない。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。