「きっかけはTwitterの懸賞に応募したこと。よくあるじゃないですか? RT(リツイート)したら抽選で10万円プレゼントとか、総額100万円を山分けとか…。そういうのに応募していたらDMで『当選しました』というメッセージが送られてきて、聞かれるままに口座情報とか身分証明書を撮って指定のメールに送ったのが悪夢の始まりでした」
こう話すのは東京都に暮らす32歳の主婦・岸本綾乃さん(仮名)。コロナ禍で夫の残業代がカットされ、ちょうど家計に不安を覚えはじめ、暇を持て余していた頃にワナにひっかかってしまったという。
「子供もまだ小さいのでパートにでも出ようと思ったのですが、近所では飲食店もドラッグストアも募集しているところなんてない。それで少しでもお金がもらえるチャンスがあるなら…とTwitter懸賞に応募していたら“当選メール”が届いたので口座情報を伝えたら、本当に10万円が振り込まれていたんです。でも、たしかどこかの不動産屋さんの懸賞企画だったのに、振込人には個人名が記されていて、おかしいな…とは思っていたんです」(綾乃さん)
タネを明かせば、その10万円は懸賞の賞金ではなく、闇金業者による“融資”だった。最初に届いた“当選通知”には「個人情報保護」や「懸賞の規約」など長々とした文章が綴られていたのだが、綾乃さんは最後まで目を通していなかった。文章の最後には、「10万円懸賞はあくまで補欠での当選」とあり、今回は「優先融資権への当選」となっていることや金利などが明記されていたという。それを知ったのは、10万円が振り込まれてから10日後のことだった。
「いきなり男性から電話がかかってきて、『返済はいつ頃になりますか?』って言われて、は? ってなりましたよ。そこで初めて利息に関する話も出てきて、あわててメールを見返したら融資って書いてあるじゃないですか。でも引き落としやら何やらで、5万円しか手元にない。その5万円を返済にあてたのですが、利息が3万円で元金は8万円にしか減らないんです。また10日後に返せるだけ返して…と繰り返していたら20万円以上にふくらんでしまって、主人にバレるのも怖いし、どうしようと思っていたら、“業者”の人から『いい仕事あるよ』って…」
紹介された仕事は性産業。それも届出を出していないような闇営業タイプのピンク店だったという。
「夜は外出できないので、昼間だけの約束で…。お客さんがつくと指定されたホテルに行って、1時間ほど一緒に過ごすのですが、当然、最後までの大人のお付き合いになります。独身男性の自宅に出張させられたこともありますよ。主人には健康食品の訪問営業のパートを始めたと嘘をついていますが、いつバレるかヒヤヒヤです。といっても借金はとうに返済を終えて、今は自分のヘソクリのために働いているんですけどね(笑)」
Twitter懸賞への応募がきっかけで闇の性産業に堕ちてしまった綾乃さん。だが、なかには詐欺に巻き込まれるケースも少なくないという。
「お金に困っている女性をピンク店へ勧誘するだけでなく、『懸賞に当選しました』というDMを無警戒に信じてしまい、結果、先方に伝えた銀行口座が振り込め詐欺に使われたり、ひどいケースになると、各種の給付金詐欺の名義貸しを強要されたりと、懸賞をめぐるトラブルが多発しているんです」(ITジャーナリスト)
どこかの「お金配りおじさん」のように、大盤振る舞いの気のいい大富豪とは限らない。うまい話には注意が必要だ。
(平沼エコー)