「コロナ倒産」の水面下で進む大型M&A、宿泊と飲食で進む「業界再編」

 4月のM&A件数は50件で3月の86件より大幅減少(前年同月比では17件減少)、100億円超の案件も1つだけと、コロナ禍で企業活動が鈍っていることを物語っている(適時開示ベース)。ただ一方、嵐の前の静けさとでも言おうか、ポスト・コロナの業界地図を窺がわせるような動きが水面下で進行している。

 複数案件が成立した業界で見れば、1つはドラッグストア業界だ。業界トップを争うウエルシアHDとツルハHDが群馬県や九州のドラッグストア・チェーン、58店舗と228店舗を傘下に収めた。ツルハは今年に入り2件目のM&Aで、もともと上位数社が覇権を争い、ポスト・コロナ時代には様々な需要が高まるだろう業界なので、今後も大が小を呑む動きが続くだろう。

 もう1つは外食。実演手打ちうどんなどで有名な東証1部のグルメ杵屋が茨城県を本拠とするラーメン・チェーンなどのチェーン店を吸収。ジャスダック上場でブックオフやモスバーガーなどのフランチャイズ運営を行うありがとうサービスは、四国や九州で喫茶店やレストランの運営を手掛ける会社を子会社化した。外食は言うまでもなく中小零細の小規模店舗がコロナ禍をモロに受けている業界、ここでも大手資本が力を見せる草刈り場の様相を呈することが予想される。

 そのほかでは中古品のリユースが4件と件数の多さが目立った。

 一方、M&Aとして目立った動きは今のところ見せてはいないが、今後の再編が予想されるのがホテルや旅館などの宿泊施設業界だ。コロナ禍の煽りをモロに食らっているのがこの業界で、帝国データバンクの調べによれば、4月27日に「コロナ倒産」が100件に達したうち、ホテル・旅館・民泊が21件で、11件で2位の飲食を大きく上回っている。コロナはインバウンド需要を一気に細めたので、倒産のタイミングも早かった。5つの県ではこの業種がコロナ倒産の第1号案件となっている。

「ただこれまでのところこの業種でのコロナ倒産で目立つのは、もともと財務や収益構造に問題があった事業体で、コロナ禍は倒産のトリガーを早めに引いただけの格好です。逆に言えば、昨今のインバウンド需要は問題企業を延命させていたとも言え、いずれコロナが収束すれば再び盛り上がるのは目に見えているので、淘汰後の再編が進むでしょう。事実、4月27日にはWBFホテル&リゾーツが約160億円と最大の負債総額での民事再生法を申請しましたが、主要都市でビジネスや観光ホテルを展開していた同社には既に複数の企業が支援の名乗りを上げているといいます」(経済ジャーナリスト)

 コロナ倒産は経営の舵取りによっては継続できた可能性を秘めた会社が、傷モノの安い買い物となって大量放出されている見方もできる。今は世の中すべてがひっそりと息をひそめている状態だが、今後はさらに優良な掘り出し物がM&A市場に放出され、騒動も見通しがきくようになれば、大手や勢いのある企業が“良いとこ取り”でかっさらっていくという再編が様々な業界で行われるだろう。

(猫間滋)

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