中国・武漢市で発生した「新型コロナウイルス」(以下、「新型コロナ」)。ついには神奈川県内において国内初の死者が確認されたほか、東京都内のタクシー運転手への感染も発表されるなど、日本での大流行による甚大な被害も懸念されている。ところが有事には、さらなる混乱をもたらす人為的事態が発生するものである。
新型コロナに有効性が証明された治療法やワクチンは存在しないのが実情だ。世界保健機関(WHO)は「非常事態」を宣言するなど、世界規模での感染拡大の可能性もあるため、日増しにその不安は増幅するばかりである。
こうした中、日本政府は被害を最小限に抑える水際対策を急ピッチで進めているが、いまだかつて人類が経験したことのない「未知のウイルス」への恐怖を助長しているのが、科学的な根拠のない、悪質極まりないデマ情報やフェイクニュースだ。
「例えば『バナナを食べると新型コロナ肺炎にかかる』という情報がネット上に出回り、中国国内ではバナナが大量に売れ残るという事態がいまだに続いているようです。また、中国の国営メディアである新華社通信は『国内の医療機関の研究により、中国の伝統的な漢方薬が有効であることがわかった』と報じました。すると不安に駆られた中国国民たちは、その漢方薬を手に入れるために、薬局やネットショップに殺到し、各地で売り切れが続出した。こうした中、別の国営メディアは『ウイルスの予防・治療薬はない。むやみに服用しないように』と呼びかけるなど情報が錯綜し、混乱を招いているんです」(全国紙医療担当記者)
この他にも、中国では〈イチゴやワインビネガーに予防効果あり〉〈ニンニクを食べるとウイルスが消滅〉〈ゴマ油を鼻に塗る、ショウガを口に入れておけばウイルスを遮断できる〉など、根も葉もないニセ情報が拡散され、多くの国民が振り回されているという。
SNSエキスパート協会代表理事の後藤真理恵氏は、このように指摘する。
「SARSやエボラ出血熱、鳥インフルエンザの時もそうだったのですが、今回もネットを通じて、まったく事実無根の情報が無作為に吹聴される状況になっています。情報の発信源は、中国だけに限りません。東南アジア、北中米、欧州など、さまざまな国・地域から発信されているんです。いずれの情報も人々の不安をあおるという点では看過できないものですが、特に感染者が多いアジアの人々を排斥するような、差別につながるものは悪質極まりない。また、『中国人による買い占めを防ぐために、台湾の医薬品メーカーが台湾の旗をプリントしたマスクを販売した』という、両者の対立をあおるようなデマもありました。誰もがSNSを使用して、不特定多数の人に情報発信ができるため、一般人が被害者になると同時に、社会の混乱に加担する加害者(デマ拡散者)にもなりやすいというリスクがあるんです」
新型コロナに関するデマ情報やフェイクニュースの拡大・拡散を重く見ているWHOは、その現状について「世界的大流行を意味する『パンデミック』ではなく、科学的根拠のない情報が大量に拡散する『インフォデミック』が起きている」と指摘。WHOや厚生労働省などの公的機関は、サイトを通じて、デタラメ予防法の否定に躍起となっている。しかも、こうしたデマ情報・フェイクニュース対策は、当局と捏造者の間でイタチごっこ状態が続いているのだ。