さらに戦後になり、近江商人が商売のモットーとした「三方よし」が世間に広まったことも「滋賀県人陰謀論」が盛り上がる一因ともなった。
「この『三方よし』というのは諸説ありますが、麻布商だった中村治兵衛の遺訓にあったとされ、戦後の高度経済成長期に注目され広がった。いわゆる『売り手よし、買い手よし、世間よし』は伊藤忠の経営理念になっているほど。また近江商人のネットワークは成功者が後輩に出資するタニマチ的な側面もあって、全国的な近江ネットワークができあがっているとの分析もある中で、80年代には『三方よし』が英訳され、アジア圏でも日本の繁栄の象徴として紹介されて、広く知られることになったのです」(研究員)
とはいえ、実際には滋賀県が日本を支配するというのはいささか飛躍した「陰謀論」的見方であろう。データ上でも現在の日本経済における滋賀県民のプレゼンスはそれほど大きいものとは言えない。経済ライターによれば、
「実は、東京商工リサーチが日本の人口あたりの社長輩出率というのを毎年発表していますが、最新の17 年版では徳島県が4年連続トップで、10万人当たり1.4人という数字。滋賀は47都道府県中44位という惨憺たる数字なんです。社長の出身地人数でも東京がダントツで、2位の北海道を倍近く引き離している。経営者の人数で言えば圧倒的に、東京や大阪、愛知といった大都市出身が多く、こと社長の出身地人数だけで言えば、滋賀県は最下位の鳥取県に次ぐ46位という結果です」
だが、近江商人をルーツに持つ企業のネットワークは依然として健在。企業の寿命は30年と言われる中で、その存在感はいまだ圧倒的なものがあることも、また事実なのだ。