次に、なるべく働いて稼ぐという道だ。前述の「高齢者の定義」というワードが話題になった時も、「いつまで働けばいいんだ」という受け止め方をされた面があった。だが、寿命は確実に延びて、80、90歳は当たり前。有名人などが70代で亡くなると、「まだ若いのに」なんて声がよく聞かれるほど。そこで新機軸となるのが「ライフシフト」という考え方だ。
人事や社内コミュニケーションに詳しい多摩大学大学院教授の徳岡晃一郎氏は、ライフシフトの必要性を力説する。
「60歳もしくは65歳で定年した人を調査すると、会社引退後に、大きく3つの不安を抱えています。老後のお金の問題、引退してなくなりがちな人とのつながり、引退後にやる仕事のやりがいです。現在は65歳で引退後も、人生は長く続く時代です。そこでこの3つをいかに満たして引退後の生活を充実したものとして過ごすか。ライフシフトとはそういった考え方です」
それがかなえば当然、やりがいある仕事を通じて社会ともつながりつつ、収入も得られて、おのずとすべての問題が解決される。
「もちろんいつまでもフルタイムで働くのは難しいので、仕事を抑えながら、生活費をまかなえればいい。そもそも2000万円問題も、老後に余裕ある生活をしようとすれば、年金などの収入だと人によっては10万円ほど足りないといった話。この部分を埋められればいいんです。ただ現状では、高齢者が就ける仕事は、マンションの管理人や道路工事の誘導係、タクシー運転手といった、あまり人がやりたがらないものばかりです。一方、シニアの人には会社で培った専門知識や経験値など、人的資本として社会で役立てるものはあるはず。大企業を中心にシニア人材の採用が増えていますが、数は限られます。また採用の現場では、なんとなくこんな人だったらといった具合で、明確な採用のビジョンが描けていません。時代の変わり目で、移行期にあると思います」(徳岡氏)
実際、どういった戦略を描けばいいのか。
「多くの会社員は30代までは順調にキャリアを伸ばせますが、40代で頭打ちになり、50代で下り坂、60歳を過ぎると再雇用で、収入面でもグンと低下します。ですのでベストは、40代である程度先を見極めて、会社の看板がなくてもやっていけるか、自分の専門性を高めたり、本を読んで勉強して理論武装するなりし、会社はそのために利用するくらいの考えをするのが望ましい」(徳岡氏)
仮に60歳で定年して、100歳まで生きれば、その間40年。人生をもう一度やり直すと考えて「第2の人生」を踏み出すことが必要なのだ。
最後に、経済評論家の荻原博子が政府の施策を一喝する。
「政府は年金について、社会保障と税の一体改革と言いますが、やっていることはいかに国民から年金・保険料を巻き上げるか工夫して、インチキを積み重ねているだけです。例えば現在議論されている、年金の保険料納付の5年延長も、人生100年時代だから70歳まで働くのが当たり前という考え方が、そこにはある。また消費税が10%に上がったのも、社会保障に充てるからと言いながら、8割は借金の穴埋めです。社会保障で引かれる国民負担率は45%ですが、そこに加わる子育て支援金について、岸田首相は新たな負担になることはないと強弁し続けています。これじゃあ、国民は納得感を得られず、将来に不安を抱えて消費を減らすようになっている。もうどうやったって経済がよくなるわけはありません」
「人生100年」はバラ色なんてトンデモナイ。もはや、無策の政府を頼みにできない今、老後生活を守るのは我が身のみと肝に銘ずべきだろう。
*週刊アサヒ芸能6月13・20日号掲載