月額120円の「いじめ保険」登場も…立ちはだかる「団体契約」の壁

 いじめに遭って引っ越しを余儀なくされた場合、ネットであらぬ攻撃を受けた場合、ストーカー被害に悩んで防犯対策を強化しなければいけない場合…。そんな現代的なトラブルが起きても心配無用!? 東京海上日動火災保険は10月1日から、いじめやネットトラブルなどを補償する保険を売り出すというから、「これ需要ありそうだな」、「諸君。良いニュースだ」とネットやSNSでは話題になっているが、一方で心配する声も上がっている。

「同社が売り出そうとしているのは、『トラブル対策費用補償特約』という保険です。対象はいじめ、ネットでの名誉やプライバシー侵害、ストーカー、嫌がらせなどで、身体や財産が棄損された場合などで、これによって余儀なくされた出費が補償されるそうです。具体的には、防犯対策、転校を強いられた時の費用、カウンセリング費用など。同社ではこれまでも、同じような理由から必要になる弁護士費用を補償する『弁護士費用等補償特約(人権侵害等)』を販売してきた経緯があって、これとセットで合わせた条件で月額120円、1事故当たり20万円を限度に補償されるというものです」(経済ジャーナリスト)

 新保険発売に関して、近年はいじめやスマホの普及でネットトラブルが増大し、2021年度のいじめ認知件数が2010年度の8倍、ネットトラブルは相談センターへの相談件数が5倍になっていることが背景に挙げられる。いじめではこれまで、エール少額短期保険が2019年5月から、ネットトラブルではJ:COMが2020年11月から保険の販売を行っていたが、ついに大手の東京海上日動が参入することとなった。しかし、説明をよく読むと事情は少々異なるようだ。

「一見すると、いじめやネットトラブルに遭った児童やその親が、必要な補償を受けられるかのような印象を受けますが、学校やPTAなどが東京海上の団体保険を契約していることが前提となっています。じゃあ学校でどうかと考えれば、現実的には難しいでしょう。いじめが死を伴った大事件となっても、学校側は『いじめはなかった』とする前提に立って遺族と揉めるというのがいつものパターンですからね。PTAならあり得そうですが、この保険に関する報道によれば、学校や警察との相談実績を証明する書類が必要というものもあるので、保険が適用されるまでのハードルはかなり高いように感じます」(前出・経済ジャーナリスト)

 とはいえ、この「いじめ保険」が実際に販売されれば、救われる事例が出てくるかもしれない。今回の商品が口火となって、いじめを許さない風潮がよりいっそう高まることを期待したい。

(猫間滋)

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