〈潜入ルポ〉院内消毒業者が見たコロナ病棟の非公開真実(1)重症者部屋に「N95」プレート

 日々報道で伝えられる「新型コロナ感染症」情報。本当の医療現場はどうなっているのか。多くの病床数を誇る、京都のある病院のコロナ病棟に潜入。そこで体験して感じたことを生々しくレポートする。

 始まりは5月下旬、消毒専門会社の求人募集でした。その1日2万円の報酬となるバイトに応募してみたところ─。仕事は9時から17時までの作業で、週3日。京都市内の病院で「コロナ専門病棟の消毒作業」ということでした。面接を受けると早々に採用でしたから、スタッフが足りていなかったのでしょう。

 ここからは時間軸を追って、一般には非公開となる作業現場の真実を綴っていきたいと思います。

〈AM8時30分〉

 作業初日は採用から3日後、病院前に集合でした。共に働くのは、若手社員F氏とベテラン社員N氏。2人ともコロナ禍の医療施設やクラスターが発生した飲食店などを消毒して回っているとのことでした。

「緊張することはない。大したことないよ」

「うちの会社でも誰も感染していないから」

 などと、口々に訳ないことだとアピールします。

 感染症患者が隔離されている病棟入り口の大きなボタンを押すと、自動ドアが開き、そこをくぐれば、奥には2枚目の扉。片方が開いていると、もう一方は開かない仕組みになっています。2枚目の扉を開けて中に入り、左側にある更衣室で制服に着替える。研修医が身に着けるような、紺色の医療着です。

 いよいよ、仕事がスタートします。これから入室する病棟はどんな状況になっているのか、正直、恐ろしくもありました。

〈AM9時〉

 まずはナースステーションのゴミ回収、トイレ清掃、床掃除などからです。

 ドアを開けると、日勤と夜勤の引き継ぎ時間でミーティング中。男女共に談笑しながら、看護師たちには笑顔があふれています。拍子抜けするほど緊張感がなく、休憩ルームでごく自然に朝食や昼食を摂っていました。私も何度か入院経験がありますが、一般病棟のナースステーションと何ら変わりません。

〈AM10時〉

「さあ、行きますか」

「病棟消毒デビューやね」

 そう言う先輩たちから、患者の部屋に入るための装備の説明がありました。

 入院患者の部屋には3種類あります。自覚症状がなく、強制的に入院させられている患者の部屋、その中でも入院期間の2週間目に迫った患者の部屋、そして病室の入り口に「N95」などと書かれたプレートが貼りつけてある重症者の部屋です。

 どの部屋にも入室する際は、必ず雨合羽のようなビニール製の医療用装具を全身に被って後ろで止めます。そして食品加工工場からアスベスト処理、化学プラントまで幅広く使われているニトリル手袋3枚を装着。ドラッグストアで買えるような不織布マスクも必須で、さらに目を覆う透明のシールドまで着ける。軽症患者の部屋でも、この装備です。

 それが重症患者の部屋ともなれば、分厚い感染症医療関係者必須のN95マスクの上からさらにマスクを2枚重ね、ヘアキャップ、シールドを着ける。まるで未知のウイルスとの戦いを描いた映画「アウトブレイク」のような重装備で臨みます。空気感染の可能性も叫ばれ、「この程度の重装備が必要だ」と先輩たちは一様に口にするのです。

 入室時はためらわないことが鉄則。患者を不安にさせないためです。 しかし、暑い上にマスクで声は通りません。話しかけられても 仲間同士で何度も聞き返す。そんな異様な職場でしたが、病室はホテルのようにきれいでした。

(フリーライター・丸野裕行)

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