卒業、進学、就職……等々、春は別れと出会いの季節。ということなのだろう、期が改まる4月1日に合わせて新機軸を打ち出そうとして企業が名前を変えることは多い。そして今年もいくつかの有名企業の名前が変わる。
ソニーは4月1日から企業名が「ソニーグループ」へと変わる。と聞けば、たかが「グループ」がついただけではないかと言うかもしれないが、内実を見ればそうとは言えない。
「ソニーではこの名称変更に伴って組織構成も変えて、グループが本社機能に特化、各事業会社がその下にぶら下る形となります。じゃあソニーという会社名は消えるのかといえばそうではなく、そもそもの会社の発祥だったエレクトロニクス事業を受け持つ『ソニーエレクトロニクス』を『ソニー』の社名にします。つまり、創業以来の『エレクトロニクスのソニー』という看板を下ろして、今やさまざまな事業を行うグループ企業ですよ、と内外に示すということです」(経済ジャーナリスト)
だからこれに先立つ20年7月には、グループ内の金融会社の「ソニーフィナンシャルホールディングス」を完全子会社化させ、今回の組織改編に備えていた。さらに2カ月前の5月に今回の社名変更が発表されたのだが、その際に示された「経営方針」では、今後のソニーは①金融、②ゲーム&ネットワークサービス、③音楽、④映画、⑤アニメといった事業の優先順位で稼ぐ企業になるのだと示され、エレクトロニクスはこれに次ぐ6番目とされていた。そういった意味では、もはやエレクトロニクスのソニーでなくなっていた企業の内実に沿って、名称と組織構成をようやく改めたとも言える。
同じく「グループ」に生まれ変わるのが楽天で、こちらも名称を変更するのはソニーと同じくグループとしての経営を強化しようとの狙いからだ。
「楽天はもともとのネット通販のほかに、金融から球団経営まで様々な事業を手掛けてきた中で今度は携帯電話も加わって、今や子会社数は150を超えます。そこでグループが全体を束ねる形で資本政策や他社との連携を引っ張るという形に変えようということです。ちなみに、本業のネット通販だけは本体に残ります」(前出・ジャーナリスト)
会社が歴史的に抱える複雑な事情から社名が大きく変わるのが富士ゼロックスで、4月から「富士フイルムビジネスイノベーション」となって「ゼロックス」が消える。
そもそも富士ゼロックスの社名は、富士フイルムホールディングスとアメリカのゼロックス社が合弁企業となったことで足し算で生まれた名前だった。ところが両社は19年11月に富士フイルム側がゼロックスが保有する富士ゼロックスの株式を買い取る形で合弁を解消。ただ、技術やブランドライセンスなどでの契約が残っていたので、合弁会社の会社名がそのまま残される形をとっていた。そしてその契約も3月一杯で終了するので、完全に別会社となるので晴れて独立した名前を名乗るというものだ。
このように、4月になって今までの体制を“卒業”、新たなステージに進むことで社名を変える企業は多い。その中でも馴染みが深い企業の名称変更として、回転すしのスシローが「スシローグローバルホールディングス」から「FOOD&LIFE COMPANIES」へとガラリと変わる。理由は、海外展開や居酒屋、台湾茶専門店の出店などで、旧名称の枠には収まりきらぬほど社業が拡大したからとのことだが、新社名ではスシローの「ス」の字すらないので、記者や投資家などは新社名に慣れるまで時間がかかりそうだ。
(猫間滋)