風評被害をバネに逆転!「コロナー社」代表が明かす“接触予防手袋”開発秘話

 新潟県三条市の総合住宅設備メーカー「株式会社コロナ」の社長が地元紙に《キミのじまんのかぞくは、コロナのじまんのしゃいんです》とのメッセージを寄せたのは、今年6月のこと。社名や店名、施設名に「コロナ」の名を冠していたことで、いわれのない風評被害が全国的に横行していた。

 法務局の登記情報提供サービスによれば、社名に「コロナ」と名の付く会社は全国で約300社。日本各地にある「コロナ」名の企業などに事情を聞いてみた。すると……。

「おたくの名前は縁起が悪いから、と途中でキャンセルの電話が入ったこともある」という不動産会社に始まり、「いまだに無言電話がかかってくる」(鉄工関連)、「領収書に『コロナ商事』と書いてほしい、と言ったら、店員からバイ菌でも見るような目でニラまれた」(商事会社)、「店の看板が料理の写真とともに、ネガティブなイメージでインスタにアップされた」(レストラン)、「酔った客から『いいかげん、名前変えたほうがいいんじゃない』と言われた」(居酒屋)‥‥などなど。何らかの風評被害を受けたことがある、と答えた企業や店舗が実に多かったのだ。

 とはいえ、具体的な対応策がないため、大半は「今は我慢して騒動が終息するのを待つしかない」という苦しい状況が続いており、

「いまだにお客さんから『名前がコロナだけど影響ある?』なんて聞かれると煩わしいし、抵抗がないと言ったらウソになります。でも、別に我々が原因で騒動が起こったわけではないしね。今はただ、この騒ぎが収まるのを待つしかありませんね」(広島県「コロナ写真店」)

 さらには、

「うちはジーンズ店を初めて30年以上。地元では『コロナさん』と呼ばれているし『あぁ、そういえばそうね』というくらいの感じなんだけど、ジーンズと学生服を扱っているので、ドアは常にオープンの状態。だから、いまだに入り口の前で『あっ、ここ、コロナだぜ』って言われたりね。ま、しばらくはこの状態が続くだろうね」(静岡県「ジーパン屋567」)

 そんな中、風評被害という逆風をバネに新たな商品を生み出し、成功した企業もある。それが岐阜県にある作業手袋製造会社「有限会社コロナー」だ。同社の菱田男社長が語る。

「うちは自動車関係の手袋を作る会社なんですが、実は昨年11月に私が大動脈瘤で倒れ、仕事ができなくなったんです。会社を継続させるかどうか悩んでいたところに、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけた。で、3月には売り上げが急減。正直、廃業することも考えました。そんな時でしたね、電話による誹謗中傷があったのは。『こんな時にそんなふざけた名前付けやがって』と。でも、うちが社名にコロナと付けたのは45年前のこと。ですから、そう答えました」

 ところが、しばらくすると、今度は電話だけでなく『人の注目を集めて何がおもしろいんだ』『便乗して儲けようと思っているのか』といった心ないメールが届くようになったという。

「病み上がりだし、仕事もうまくいっていない。落ち込みましたね。しかもお客さんから電話がかかってきても『はい、コロナーです』と大きな声で答えられなくなり、領収書をもらう時もお店の人に名刺を差し出し『この宛名でお願いします』と小声で言わなければならなくなって‥‥」

 全てが及び腰になってしまったのだ。だが、捨てる神あれば拾う神あり。ある時、東京の仕事関係者からこんな話が舞い込んだ。

「東京ではコロナの感染が拡大していて、電車の吊り革につかまるのも怖い、と。で、あなたのところで対策グッズを作ってみたらどうだろうか、とアドバイスをいただいたんです」

 そこで菱田社長は原点に立ち戻り、「安心して吊り革につかまることができる手袋」考案に注力する。

「もともと岐阜や(愛知県の)一宮は、繊維の生産地として知られる地域。銅には除菌効果があるので、銅を生地に入れ込んで商品を作れないかと思い、試行錯誤の日々が続きました」(菱田社長)

 そして今年6月、ついにオリジナルの「接触予防手袋Touch」が完成。最初は全く売れなかった。地元紙に取り上げられたことでその後、少しずつ注文が入るようになったが、当然、風評被害の心配もあった。

「メールでお客さんとやり取りする中では『どうして、そんな名前なんですか』と質問してくる方もいます。もともと、この店名は法人化する際に、父の『人を温めるという手袋を作りたい』という思いから名付けたもの。ですから、お客さんにはそう答えています。今後はもう迷わず、コロナーという名前を大事にしていくつもりです」(菱田社長)

 最後に、国内外の「コロナ情報」を収集してきた「コロナマニア」(パブリブ)の著者・岩田宇伯氏が言う。

「確かにコロナという名前だけでいたずら電話がかかってきたり、嫌がらせの手紙が届いたり、とんだ風評被害に苦しみ、涙した会社や店があるのは事実。これは日本だけじゃなく、海外も同様です。その一方で、『頑張ってください』『応援しています』といった励ましの声も多かったと聞き、やはり人間は捨てたもんじゃないな、と。しばらくはコロナ禍が続くでしょうが、時には視点を変えて、逆転の発想で何かを生み出したり、あるいは笑い飛ばせるようになれれば……。そう願ってやみませんね」

 我々も苦境に立つ「コロナ」関係者を応援しようではないか。

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