今さら東芝の不正会計問題を持ち出すまでもなく、かつて日本の“お家芸”だったエレクトロニクス産業の衰退が言われてもはや久しい。それこそパソコンが普及する前のワープロ時代にお馴染みだった富士通や、「PC−〇〇」シリーズを先導したNECなどといった会社名を聞くことはまれになっている。事実、これらの会社は、家庭・個人向けの“メーカー事業”からは相当な距離を置いている。だから、日常で会社名を聞かなくなっているのだ。
だが、時代の移り変わりと共に会社の経営戦略も変わり、一時は様々な事業部門からの撤退を強いられた“日本丸”企業も、“我らの時代”を窺い、虎視眈々と得意分野で牙を研いでいるようだ。エレクトロニクス産業専門の調査員が言う。
「例えばパソコンはエイサーなどの中国製、携帯電話はサムスンなどの韓国製品が、移転可能な技術力と安価な労働力を背景に日本メーカーを駆逐してきましたが、裏を返せば、単なる量販メーカーに過ぎません。で、そういった小売り家電が流通するバックボーンとなるシステム全般を担っているのは、富士通、NEC、日立グループといった国産システムベンダーの“ご三家”あってこそなんです。これらの会社は、小売りの撤退を強いられ、会社とその売り上げ規模こそ縮小しましたが、肝心要となるシステムを握っているので、決してなくなることはありません」
例えば、新幹線が事故なく走れるのはこういったシステム会社のシステムを背景にしてのことだし、日本のインフラのほぼ全てでも同様のことが言える。肉を切らせても骨があれば大丈夫だ。その骨こそ、現代社会においてはシステムなのだ。
調査員が続けて言う。
「こういった各社は、AI時代の到来と自社復活を見据えた数歩先の社会に見合った開発に注力しています。例えば、スマホが要らない社会ですね。現在はスマホという端末にあまりに依存しています。レジの決済もスマホをかざしたりとか。でも顔認証が一般化したら、手ぶらでも買い物が出来るようになります。機械に依存しなくても、体で認証が出来、買い物が出来る社会の到来ですよね」
これを可能にするのも、基幹システムの進歩あってこそというわけだ。顔認証システムが進めば、現在はSuicaやPASMOのカードをかざす電車の改札も、手ぶらで済むことになる。
「NECの本社で試験的に運営されている無人コンビニがその例です。最終的には、店員が要らないだけではなく、決済を媒介するスマホやカードが要らない、体一つでの決済が行われ、でも、実際には口座から支払いが行われるという社会が近いうちに到来するはずです」(同・調査員)
無人コンビニなども、コンビニの経営合理化から語られるのが常だが、これを支えるシステムベンダーの視点から見たら全く違ったビジネス風景になる。目先の企業業績で技術力と蓄積を侮ってはいけないのだ。