春闘“満額回答”続出で「デジタル人材」と「働かないおじさん」の格差浮き彫り

「新しい資本主義」で「分配」の重要性を掲げ、経済界にも理解を求める岸田首相の下で迎えた今年の“官製春闘”。3月16日の集中回答日では、自動車、電機などの製造業が前向きな回答で応えた。自動車はトヨタ、日産、ホンダが満額回答で、電機では日立、東芝、NECがベア3000円の満額で、三菱電機、富士通は1500円ながら昨年の妥結額1000円を上回った。

 でも、おかしくないか。東芝は会社2分割か非上場かで揺れている渦中だし、富士通は直前の3月8日に希望退職で3000人を超える応募者があったと発表されたばかり。そこにはここ数年よく聞く「働かないおじさん」問題と、デジタル人材獲得競争がある。

「富士通で3000人もの希望退職が集まったのは、電機では15年のシャープと16年の東芝以来のこと。対象は本体と国内グループ企業の大半で50歳以上の幹部社員なので、いわゆる『働かないおじさん』対策と思われます。そして賃上げは、新しいDX分野に多くの人材を確保するための“アメ”ということでしょう。というのも富士通の場合、大卒の初任給は組合要求の2000円を超える3500円増となり、院卒については組合が要求してもいないのに1万8500円も増額されたからです」(経済ジャーナリスト)

 安倍首相から岸田首相に続く給与の引き上げ要求に財界が理解を示し、各企業が軒並み賃上げに応じるのは日本の横並び体質とも言える。だが、リストラと賃上げが同時に行われる辺りに、どんな人材が要か不要かを峻別する厳しさがうかがわれる。そして“不要”とされる50歳以上と言えばその多くはバブル入社組で、まさに世に言う「要らないおじさん」だ。一方で“デジタルの分かる若手”は好待遇で迎える。

 企業論理と言えばそれまでだが、見方によってはあまりに非情な取捨選択と言えなくもない。だがそんな情緒的なことを言っていられないのが現実。以前からハイテク各社の間では、現状ではあまり潤沢と言えないデジタル人材の獲得競争が熾烈を極めているからだ。

「NECでは19年に、新卒でも優秀な人材には1000万円の給与を打ち出して同業他社の焦りを誘いました。すると富士通も20年に、高度IT人材に年収3500万円まで支払える新制度を導入。とにかく優秀な人材には破格の待遇でも迎えたい、というのが各社の本音です」(同)

 このように、民間では熾烈な人材獲得競争が行われている一方、デジタル対応を進めたいのは国も同じ。岸田政権では4つの政府会議を立ち上げ、うち2つにはデジタルの名が冠されている。そこで周回遅れながら、今年の採用からデジタル専用人材の獲得に動き出したという。

 今年のキャリア官僚募集では、デジタル区分を新設して、3月18日〜4月4日までネットでのエントリーを受け付ける。試験にはAIや情報セキュリティーなどに関する問題が含まれ、約40人を採用予定というが、民間が人材獲得に札束を切っている中、果たして薄給でブラックな労働環境にどんな人材が集まるのやら。

(猫間滋)

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