来年1月、新体制でスタートするトランプ政権。現職であるバイデン大統領の任期が残り2カ月に迫る中、膠着していたウクライナ情勢が大きく動こうとしている。
米大手メディアが、ウクライナに提供していた米国製長距離地対地ミサイル「ATACMS」のロシア領内への使用をバイデン氏が許可した、と一斉に報じたのは11月17日のこと。19日にはロシア国防省が同日未明にウクライナ軍による「ATACMS」を使った西部ブリャンスク州の軍事施設を狙った攻撃があったと発表し、その報道が裏付けられる形となった。
同省によれば、発射されたミサイルのうち5発は防空システムで撃墜、残り1発も損傷を与えたが、破片が軍事施設に落下。火災は起きたものの死傷者はいなかったという。
「ロシア国防省の発表に対し、ウクライナ軍も弾薬庫を破壊したと発表。現地メディアの報道によれば、ウクライナ当局者もATACMS使用を認めていると伝えられます。ATACMSは全長4mで直径60㎝。数百の子爆弾が搭載され速度はマッハ3、射程は300kmと、東京から名古屋手前まで届く距離を誇るミサイルです。これが通常兵器として使用されることになれば、前線のはるか遠くからロシア軍の司令部や補給拠点をターゲットに攻撃することが可能になる。もちろん、前線に送り込まれている北朝鮮兵士にも多数の犠牲者が出ることになるはずです」(ウクライナ情勢に詳しいジャーナリスト)
とはいえ、なぜバイデン氏は任期満了を2カ月後に控えたこのタイミングで、ATACMSの使用を突然許可したのか。その理由の一つが、北朝鮮兵士の大量投入にあるとされる。
「今回の北朝鮮兵派兵については、国連をはじめNATOも即刻中止を求めていたものの、北朝鮮は一切聞く耳を持たず前線に兵士が配備された。そこでバイデン氏としては、北朝鮮側に対しミサイル攻撃することで自らの軍隊がいかに脆弱であるかを自覚させ、今後の追加派兵を留まらせるという“警告”に出たとも受け取れます」(同)
周知のように、これまで米国はウクライナに提供した長距離兵器の使用によるロシア本土への攻撃に“待った”をかけてきた。理由はもちろん、戦争拡大を憂慮したからに他ならない。しかし、バイデン政権は5月のハルキウ攻勢以降、制約を徐々に緩和。「防御目的」との条件付きで、射程距離約50マイル(約80キロ)の高速機動砲兵ロケットシステム(HIMARS)の使用を容認してきた。
「ところが、そんな中でトランプ氏が『ウクライナ戦争を1日で終わりにする』と言い出しはじめ、なんと大統領選で勝利してしまった。こうなるとウクライナに対する支援の打ち切りも現実味を帯び、軍事産業をバックボーンに持つバイデン氏としては死活問題。そこで、北朝鮮兵士に対する“警告”を表向きの理由にして、戦争を長期化させる作戦に出たのではないか…。そんな専門家の見方があるんです。案の定、プーチン大統領は米国などがウクライナに長距離武器使用を容認する場合、それを北大西洋条約機構(MATO)とロシアの直接的な対決と見なすとし、核兵器使用の可能性も示唆しているとの報道も出ている。任期満了前の“最後っ屁”に波紋が広がっています」(同)
バイデン氏のミサイル使用許可について、現時点でトランプ氏はまだ声明を出していないが、長男トランプ・ジュニアはXで《軍産複合体は、父が平和を創造し命を救うチャンスを得る前に、確実に第3次世界大戦を起こしたいようだ。何兆ドルもの資金を確保しなければならない。無駄に命が失われる! 愚か者め!》と痛烈に批判しているが、その言葉通りにならないことを祈るばかりだ。
(灯倫太郎)