10月27日に投開票が行われた衆議院議員選挙では、与党の自民党と公明党は公示前勢力(279議席)を大幅に減らし、過半数(233議席)を割り込む215議席になった。自民は、247議席から191議席、公明は32議席から24議席へと大幅に減少した。自公の過半数割れは、民主党政権が誕生した2009年衆院選以来の出来事だ。
今回の最終局面で、有権者の判断に強い影響を与えたのが10月23日に日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」に掲載された自民党本部が非公認候補が代表をつとめる支部に2000万円を送った事実を報じた記事だ。
〈自民党派閥の裏金事件で非公認となった候補が代表の党支部にも党本部から総選挙公示直後に政党助成金2000万円が振り込まれていたことが22日、本紙の取材でわかりました。裏金づくりという組織的犯罪に無反省な自民党の姿が浮き彫りとなっています。
(中略)裏金づくりで自民党非公認となりながら、党支部長のままの候補者が8人います。本紙は8人が代表の政党支部に取材。ある支部の会計責任者は「他の支部のことはわからないが、党本部から党勢拡大のための活動費ということで2000万円が振り込まれた」と認めました。〉(10月23日「しんぶん赤旗」)
共産党のインテリジェンス能力は傑出している。共産党が裏金議員周辺に協力者を獲得しているか、アルバイトに紛らせて工作員を送り込んでいるのでない限り、このような内部情報を入手することは不可能だ。また選挙期間中に政党本部が支部に公認料や活動費を支給することは合法だ。一般の新聞やテレビが2000万円支給の事実を摑んだとしても、選挙妨害になるおそれがあると考え、報道しなかったであろう。「しんぶん赤旗」の前衛的努力が実を結び、朝日新聞、読売新聞などのブルジョア(商業)新聞も革命党機関紙の後追いをすることになった。
しかし、「しんぶん赤旗」が大スクープを打った共産党は10議席から8議席へと2割も議席を減らした。この党は215人の候補者を立て、140以上の小選挙区で立憲民主党と対決したが、小選挙区での当選者は1人だった。共産党は数億円の供託金を没収されることになった。今回の総選挙で共産党も大敗北を喫したのだ。
しかし、この政党の特徴は大敗北を率直に認めずに勝利と強弁するところにある。10月28日の共産党中央委員会常任幹部会において、今回の選挙についてこう総括した。
〈今度の総選挙では、第29回党大会以来の理論的開拓の到達点にたち、日本共産党のめざす未来社会─社会主義・共産主義社会が、「人間の自由」が全面的に花開く社会であることをおおいに訴えてたたかう、初めての選挙戦となりました。
(中略)総選挙で訴えた政策、わが党の綱領路線、科学的社会主義に確信をもって、今後のたたかいにのぞむことを全党によびかけるものです。〉(同前掲)
革命政党の論理は社会常識から著しく乖離している。
佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。