イスラエルがレバノン南部に拠点を持つイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの壊滅作戦に着手した。
〈イスラエル軍のハガリ報道官は(9月)23日、敵対するイスラム教シーア派組織ヒズボラが巡航ミサイルなどを民家に隠し、イスラエルへの攻撃を準備しているとして、レバノン全土で集中的な空爆を実施すると予告した。武器庫などの近くにいるレバノン住民に対し、直ちに避難するよう要求した。
イスラエル軍の空爆は予告が出る前から激化し、同軍によると同日正午すぎまでに300回を超えた。ロイター通信は昨年10月以降で最大規模だと報じた。レバノン国営通信によると、空爆は南部や東部、北部のシリア国境近くまで及び、少なくとも1人が死亡、17人が負傷した。保健当局は南部と東部の病院に対し、負傷者の急増に備えて、緊急ではない手術を行わないよう指示した。〉(9月24日「朝日新聞デジタル」)
この件に関して、筆者は9月23日19時20分(イスラエル時間13時20分)に、秘匿度の高い通信アプリでモサド(イスラエル諜報特務局)の元高官とこんなやりとりをした。
―今回のイスラエル軍によるヒズボラへの攻撃はこれまでと位相を異にするように見える。
「御指摘の通りだ。イスラエル軍は、ヒズボラが持つロケットやミサイルの発射施設、防空施設を徹底的に破壊することを決めた。過去1年で80~90%の施設を破壊できたと考えている」
―イランはどう出てくるか。
「現時点でイランはヒズボラを抑える方向で働きかけている」
―ヒズボラはどう出てくるか。
「ヒズボラはイスラエルの北部にロケット攻撃を行うであろうが、打撃は軽微なものにとどまるであろう。問題は、ヒズボラが保有している射程500キロメートルの弾道ミサイルを使用し、テルアビブを攻撃するか否かだ。この攻撃が行われた場合、イスラエル市民に相当数の死傷者が発生する可能性が排除されない。もっともこのような攻撃をヒズボラが仕掛けてきた場合には、レバノン南部のみならず中部のヒズボラの軍事インフラをイスラエル軍が徹底的に叩き潰す」
この攻撃より前だが、イスラエルはスパイ映画のような作戦を展開した。
〈レバノンでは(9月)17、18の両日にヒズボラの構成員らが持つポケットベルやトランシーバーの連続爆発が起き、いずれもイスラエルの関与が指摘された。〉(前掲「朝日新聞」)
本件について、元モサド高官は「ポケベル爆弾工作は、モサドとアマン(軍情報部)による共同作戦だ。過去も同様の作戦を行ったことはあるが、これだけ大規模なものは初めてだ。ヒズボラに与えた心理的打撃が予想よりも大きかった。イスラエル・インテリジェンスの歴史に残る快挙である」と述べた。
イスラエルはヒズボラと全面対決する腹を括っている。
佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。