世界初の総2階建て旅客機として07年から運行が始まったエアバス社のA380。日本でもANAが成田―ホノルル便に投入していることで知られるが、各国の航空会社でも主力路線の機材として運用されている。
ところが、A380自体は21年に製造を終了。航空機の場合、改良型なども含めると30年もしくはそれ以上の長期にわたって製造を続ける場合が多く、ジャンボジェットの愛称で親しまれたボーイング747シリーズは1970年から運用され、最後機の引き渡しが完了したのはつい昨年のことで、半世紀以上もの間、製造されていた。
そのため、座席数は航空会社によって異なるが500席前後の収容人数を誇るA380の製造終了には驚きの声があがっていた。ただし、構造上の深刻な欠陥などがあったわけではない。だとすれば何が原因なのか?
「エアバス社が期待していたほど売れなかったからです。00年代はすでに世界中の航空会社からジャンボ機が姿を消し始めており、業界の主流は中型機に移っていました。そのため、話題性がある反面、実は当初から懸念の声が挙がっていたんです」(航空専門誌編集者)
定員数の多さは同機最大の特徴だが、利用客の多い路線にしか投入できない。しかも、それが仇となり航空券の単価はどうしても安くなってしまう。エミレーツ航空のA380が就航中の香港-バンコク便は、世界的に航空券がコロナ前より高騰している現在でもファーストクラスが片道約15万円と格安だ。
「燃費がいいわけでもなく、整備などの維持コストも高い。さらに滑走距離も3000m以上必要ですし、空港のボーディングブリッジも2階部分に直接入れるようにする必要もある。思った以上に使い勝手が良くないんです」(同)
さらに運用が始まって間もない00年代後半、リーマンショックの煽りを受けて航空会社も軒並み業績が悪化。1機あたり4億4560億ドル(約700億円)と航空機の中では突出して価格が高いことも影響し、購入を見送ったエアラインが後を絶たなかったのだ。
「唯一、100機以上購入したエミレーツ航空も大量のA380を持て余し、20年には32年までの全機引退を発表。現在はその時期を遅らせる見通しですが、短距離路線にも投入した背景にはこうした事情もあるようです」(同)
残念ながら次世代の航空業界を担う主力機とはなれなかったようだ。