北極はホットスポット!トランプ大統領「グリーンランド買収」の驚くべき背景

 8月15日、米ニューヨーク・タイムズが「トランプが何人もの顧問たちに複数回にわたってグリーンランド購入について意見を求めた」と伝え、「かの成金大統領が、今度は本業の不動産でのディールに乗り出して人々の耳目を集めようとしている」と話題になった。

 大方の感想は「どうせ来年に控えた大統領選挙向けのアピールでの大ボラか、リップサービスだろう」というものだった。だが本人は本気なのだ。

 グリーンランドはデンマーク領だが、トランプ大統領が購入意欲を示したことについてデンマークのフレデリクセン首相が「ばかげている」と吐き捨てたことに怒ったトランプ大統領は、9月初めに予定されていた同国への訪問を取り止めさえした。

 トランプ大統領は20日にもお得意のツイッターで、グリーンランドの寒村のような風景にトランプタワーが屹立する合成写真を掲載、「こんなことはしないと約束する」とジョークを飛ばしたが、実は構想は荒唐無稽なものとは言えない。
 
 過去にもトランプ大統領は北極圏に関心を示してきた。グリーンランド北部の空軍基地には米軍が駐留している。ロシアと中国の緊張が高まっているからだ。背景には、北極圏の温暖化の問題がある。

 2017年、日本財団系のシンクタンクがこう報告している。

「北極海は、地球平均の2倍以上の速さで温暖化が進んでおり…早ければ2030年頃には氷が消失する」

 北極海の氷がなくなると聞くと、全世界的に海面上昇が起こってたくさんの都市が水没する未来図を思い描いてしまうが、海が凍っているだけなので海面上昇にはつながらない。温暖化の怖さはあるものの、北極海の氷がなくなることでメリットもあるという。そしてそれは、日本とも無関係ではない。

 北極圏の沿岸8国で構成される北極協議会という組織があるのだが、2009年にオブザーバーではあるが日本の参加が認められた。北極の氷がなくなることで、北極は資源探査、航路開発、安全保障といった面で今後は国家戦略上の比重が高まり、オブザーバーとして意見表明ができることになった意義は大きい。

 北極圏には世界の埋蔵量の13%に上る石油、30%の天然ガスが眠っているとされる。また、北極航路が利用されれば、欧州〜アジア間の距離はスエズを経由するより40%も短縮される。物流上大いにプラスなのだ。ベーリング海でのカニ漁のような漁場の拡大もメリットとして想定されるが、こちらは2017年に関係各国が合意して最低16年間は禁止することとなった。

 さらに、北極は位置としては“地球の天井”にあたる。ここに兵力があれば周辺各地に速やかに軍事展開できる。各国は既に軍事力整備にも着手している。日本財団系のシンクタンクが報告書をまとめたのもこうした背景があり、政府に政策提言を行うためだったのだ。

 国土を購入すること自体は、じつは過去にもあった。米国は1803年に仏領ルイジアナをフランスから買った歴史があり(現在のルイジアナ州)、1867年にはロシアのロマノフ王朝からアラスカを購入している。グリーンランドについては、1946年に米ソ冷戦に備えて当時のトルーマン米大統領がデンマークに買収を持ちかけて断られたこともあれば、2016年には中国がやはりグリーンランドを購入しようとしたこともある。

 今年5月には、既にマイク・ポンペオ米国務長官がこの地域を、「世界の力と競争がぶつかり合う舞台」と評していた。この寒冷の地は、世界のホットスポットなのだ。

(猫間滋)

ライフ