日常生活についても尋ねてみた。愛犬の散歩が毎日のルーティンとなっているそうだ。
「7時に起きてトイプードルのレオ君とお散歩するのがファースト・プライオリティになっています。自宅を起点にあらゆるバリエーションで1時間ぐらい回ります。『今日は冷えるね』とか、人間なら『いい加減に黙ってくれ』とウザがられるぐらい話しかけています(笑)。それでも、楽しそうに振り返りながら聞いてくれますね。その姿に和ませてもらっています。単に私の早歩きに疲れて『もっとゆっくりで頼む』と言っているだけかもしれませんが‥‥」
もちろん、外出と迷子は隣り合わせだが、
「それが、レオ君との散歩で道に迷うことはないんです。むしろ、1人で歩いている時に道に迷ってしまいます。実は今日も取材場所にたどり着くまでにマネージャーと道に迷って右往左往していました。でも、最近は道に迷うことが冒険みたいで楽しくなってきた。その道中で家や町の様子を眺めるのもオツなもんですよ」
得るものがあれば失うものもあるのが人生の理なのか。大好きな嗜好品とはサヨナラする羽目になった。
「本当は大好きなお酒が飲みたい。それが、アルツハイマー型認知症だとお医者さんに診断された時に『酒は最悪だ』と念押しされてしまって‥‥。人生の最終章はお酒と暮らしていくことを理想に掲げていたんですが、それは死ぬ覚悟を意味すると言われています。ただ、今でも茜色に染まった夕暮れ時の肌寒い日には熱燗をひっかけたくなります。さすがに『人生ここまで』となればおいしいお酒を飲みたいですね。これは開き直りです! ホロ酔いからその先までいって、家に帰ってそのまま寝ちゃうような生活です。でも、こんなことやっていたら早死にしちゃいますね(笑)」
あまりにも茶目っ気たっぷりな答えが返ってくるため、ぶしつけながらも老後の〝シモ事情〟に切り込んでみた。
「今のところ排泄障害とか漏らすみたいなのはないですよ。ただね、ここ2年ぐらい性欲がまったくなくなりました。病気との関連性はわかりませんよ。少なくとも60代はちゃんと残っていました。エロ本やエロビデオの類を見ないこともありませんでしたからね。『もう俺は卒業だよ』と年老いた先輩たちの話を聞きながら『冗談だろ?』と思っていましたが、どうもそれが私にも降りかかってきた。もう『枯れた』という表現では足らず『不能』です(笑)。こういった下心はデートのための店を開拓しようだとか、かっこよく見せるために体を鍛えようだとかのモチベーションになるだけに困りましたね」
気恥ずかしい老いの悩みにも隠し立てすることは微塵もない。深刻な病気に侵されようが、相手を楽しませようとするサービス精神は、まだまだ健在のようだ。
梶原しげる(かじわら・しげる)1950年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後に文化放送に入社。92年にフリーとして独立。22年5月に「アルツハイマー型認知症」と診断を受ける。現在は「アルツハイマーの伝道師」として病に苦しむ人たちが元気で前向きに生きられるように活動中。