「生娘をシャブ漬け戦略」発言で完全に世間を敵に回してしまった吉野家。10年ぶりに新作の親子丼の発表会を行うはずだったが、これが急きょ中止に。被害はCMキャラクターを務める藤田ニコルにも飛び火し、イベント参加が取りやめになった上に、国際政治学者の三浦瑠麗氏からは「ちょっとバカな存在として、吉野家の常務に見られているイメージがついてしまうと困る」と同情を寄せられたほどだ。
いずれにせよこの騒動ばかりに世間の目が向いてしまった吉野家だが、実は直前の4月13日にはかなり野心的な計画を発表していた。2年以上コロナ禍に見舞われて対応を迫られてきたが、それを踏まえた上で今後を見据えた22〜24年の「新3カ年グループ中期経営計画」を策定。それによると、吉野家の「牛丼」、はなまるうどんの「うどん」に加えて、「ラーメン」をグループの事業の「第3の柱」とするというものだ。
「それによると、今後はカフェのようなオシャレな作りにするクッキング&コンフォート化を多くの店舗で展開。タブレットや店内モニターなど既存事業での出店や改装に300億円を投じるほか、100億円のM&A枠を設けて積極的に企業買収に動くというものです。そのうえで、ラーメンを事業の第3の柱に据えるとしています」(経済ジャーナリスト)
吉野家のラーメン進出については既に布石が打たれていて、16年には煮干醤油の「せたが屋」、塩の「ひるがお」を展開して都内でも人気の「せたが家」を、19年にはトンコツや鳥ガラ系の「ばり馬(※口へんに馬)」や「とりの助」のウィズリンクHD(広島市)などを買収してきた。一方で、レストランチェーンの「アークミール」や持ち帰り寿司の「京樽」などは売却を進めていたので、同社としては事業のラーメン化のための入れ替えを着々と進めてきたことになる。
「計画」ではこの吉野家の“ラーメン化”以外にも、大きく着目すべきことが上げられている。
「吉野家、はなまるうどん、せたが屋いずれにしても、客単価と出店投資が安いというサービス領域に同社は傾注してきたとして総括。しかし今後はこれとは逆の、客単価が高く出店投資もかさむ『非選択領域』にも進出するというのです。つまりは高級志向の本格的な飲食店ということなのでしょうが、このための資金として100億円のM&A資金があるとしています」(同)
だから資料をそのまま受け取るなら、100億円の使い道はラーメン化というよりは高級店化により多く振り向けられるということになる。
吉野家のキャッチフレーズと言えば、言わずと知れたあの「うまい、はやい、やすい」だが、今後は必ずしもこれにはこだわらないようで。となると次の一手が大いに気になるところだ。
(猫間滋)