令和3年度の入学案内で医学部6年間の学費の1200万円増額が明らかになった東京女子医大。値上げの理由について大学ウェブサイト上では一切の説明がされておらず、各マスコミからの質問に対してもノーコメントを貫いている。
ちなみに同大の入学案内にある学費の項目を見ると、前年度まではなかった年間200万円の「施設設備費」が新たに設けられている。つまり、この分がそのまま増額分になるわけだが、いくら学費が高額な医学部といっても一気に1200万円増額というのは前代未聞だ。
今回の増額で学費の総額は、医学部では全国2位となる4621万4000円。私大医学部の学費の平均は3000万円台前半のため、増額の影響で受験生の減少も懸念されているという。
文部科学省「平成30年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金 平均額(定員1人当たり)の調査結果について」によると、私大文系の4年間の学費の平均は396万円。東京女子医大は35%増で、これを当てはめると年間34万6500円の増額となる。もし普通の私大でこのような増額を発表すればクレーム殺到は必至。いかに常識外れの値上げ幅か理解できるはずだ。
東京女子医大といえば、コロナ禍による経営悪化で今年の夏のボーナス支給なしを発表。それを受けて看護師らが一斉退職を示唆し、病院側がボーナス中止を撤回したことが大きく報じられた。今回の学費増もそうした経営事情が影響している可能性が高いが、困るのは他にも学費増額に踏み切る大学が出てくることだ。
私大はこの30年で年間授業料は約30万円、国公立大も約20万円も上昇。だが、国税庁の「民間給与実態調査」を調べると、90年代後半をピークに平均所得は大きく減少。大学生の子供を持つ家庭にとって家計に占める教育費の割合は四半世紀前より増えており、大きな負担になっている。
事実、少子化の影響などで経営悪化に苦しむ大学は少なくない。コロナの影響で長期にわたって対面授業ができず、退学を検討している学生が急増していることも問題になっている。そうした中での学費値上げは、学生やその親たちを間違いなく苦しめることになる。
今回のケースが悪しき前例にならないことを祈るばかりだ。
(トシタカマサ)