“聖地認定”でも入店お断り!?「吉野家」幻の店舗に見たコロナ時代の新戦略

 吉野家といえば、日本人であれば遠目から見ただけでわかる、あの大きなオレンジ色の看板が特徴的だ(写真)。しかし最近、東京世田谷区の住宅街に、「吉野家」の看板を出しながら明らかに通常の店舗とは雰囲気の異なる外観の店が現れて話題を呼んでいる。

 テレビのニュースでも取り上げられたが、その外観をよく見ると、吉野家のロゴの下に「デリバリー専門店」とある。デリバリー専門の吉野屋があるというのも驚きだが、小さな扉にハゲかかった外壁、黒い布のようなもので覆われた以前の店舗の店名……。画一的な吉野屋店舗とのミスマッチな印象が、かなりレアな印象を与えてくれる。黒塗りで隠された部分が気になり、通りを歩く主婦に話を聞いてみた。

「元のお店は確か『K』っていうお店だったと思いますよ。いま覆われている部分に平仮名四文字で店名が刺繍されていたのを覚えています。小さなカウンターがあるスナックか小料理屋だったような気がしますけど……。いつまで営業していたかはわかりませんね。去年にはテナント募集の看板が出てたかと思います」

 この吉野家の「デリバリー専門店」は、ウーバーイーツや出前館によって地域住民にデリバリー商品を提供するための“供給基地”となっているようだ。イートインサービスは行っていないため、当然ながら一般客の入店はお断り。小さいながらも「吉野家」のプレートを掲げているのは、商品を引き取りに来た配達員が迷わずに済むためのものだという。

「すでにネット上では吉野家ファンと思しき人たちが、この“幻の吉野家”をひと目見ようと、現地を訪れて写真をアップする動きが見られます。入店できないものの、いわゆる“聖地”に認定されそうな勢い。ちなみにレアな吉野家といえば、甲子園球場の近くにある阪神カラーの店舗が有名。たしかに通常のオレンジカラーは宿敵の巨人を連想させるためか、看板は黄色と黒のツートンカラー。テイクアウト用の容器も黒と黄色のストライプ模様になっています。また、十割そばを出す『そば処 吉野家』は青の看板で“レア感”を演出しています」(ネットライター)

 大手飲食業界に詳しい業界紙記者に話を聞いた。

「コロナの影響でデリバリーの需要が急増した反面、地代に見合う店内飲食の来客数が見込めなくなったという点が大きい。実際、都心のオフィス街のビルの広いテナントを持つ飲食店などは、高い家賃が経営を圧迫しつつあります。今回のデリバリー専門吉野家というのは、その逆をいくスタイルですね。住宅地のど真ん中という立地で、駅前の立地にくらべて安いテナント料で済み、デリバリーにもうってつけ。まさに現状に適した試みかと思います。デリバリー景気が続けば、こうした住宅街の空き店舗の再活用が進んでいくかもしれません」

 近いうちにあなたの街にも「デリバリー○○」の看板が散見できるようになるかもしれない。

(オフィスキング)

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