「受信料裁判」でNHKを敗訴に追い込んだのは3000円の中古テレビだった!

「イラネッチケー(IRANEHK)」というものがある。「NHKは要らない」という意味が込められているらしく、その実体はNHKだけを受診しないための帯域除去フィルタだ。筑波大学の映像工学を専門とする掛谷英紀准教授が開発したものだ。直径2センチほどの筒状の形をしたもので、テレビのアンテナ入力端子に取り付けるとNHKの周波数の放送波を遮断する仕組みだという。

 この「イラネッチケー」を巡る裁判で、6月26日に画期的な判決が下された。原告は都内在住の人物で、NHKを見ていないので受信料は支払う必要がないという受信料支払い確認訴訟を起こしたところ、東京地裁が原告の主張を認める判決を下したのだ。裁判の争点となったテレビは、前出の掛谷准教授が、わずか3000円ほどの中古テレビを、NHKの電波が受信できないよう改造して原告に譲ったものだという。

「イラネッチケーを巡る訴訟は過去に4回起こされていますが、いずれもNHKが勝訴。NHKが負けたのはこれが初めてのケースです」(フリージャーナリスト)

「NHKから国民を守る党」いわゆるN国の主張ではないが、NHKの受信料徴収の仕組みが様々な問題を含むことは今さら言うまでもない。先の参院選でN国が伸びたのも多くの国民が問題と不満を共有していることの表れでもある。

 ただNHKにしてみれば、放送法64条第1項の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」との原則を譲る姿勢は微塵も見せておらず、従って今回の判決も受け入れるわけはなく、控訴は確実。仮に高裁が1審判決を支持しようものなら最高裁まで争うのは火を見るより明らかだ。

「ですから今回の裁判で、テレビは設置しているもののNHKを見ていない人から受信料を徴収するのはおかしいという考えが示された意味は大きい。裁判長も『どのような意図であれ、受信できない以上、契約義務はない』と述べており、NHKの収入基盤を揺るがすことにもなりかねないものだからです」(前出・ジャーナリスト)

 ネット時代の現在、テレビ局の主だった収入だった広告料は減り続け、多くの放送局は、もはや周辺土地に広く保有する不動産収入で支えられているのが実情。一方でNHKの受信料はこの10年で1割伸びて「肥大化」、ネット配信では「民業圧迫」、予算の決定権を握られた政治への「権力擦り寄り」など、いくら批判されても改める気配は見られない。ところが、5年連続で増え続けて7000億円超にも達する受信料収入に一穴が開いたのだから、NHKにしてみれば「これは大変!」というわけだ。

 そもそもが1950年に制定された放送法が、もちろん時代の移り変わりの中で改正を重ねてはきたが、大きく見直される必要があるだろう。テレビ局が限られた電波を放送免許という形で独占し、視聴者がそれを黙って視聴するという、従来のブロードキャストはもはや時代遅れと言っていいだろう。

 ネットフリックスが劇場公開を前提としない映画を独自制作したり、Huluが大型ドラマを制作しているように、映像コンテンツの視聴は多様化しているからだ。

「数年前には大手メーカーからAndroid TV機能を採用したテレビが発売されて、『NHKが映らないテレビ』として話題になりました。チューナーが搭載されていないので正確に言えばモニターですが、アプリをインストールすれば例えばTverで民放の番組を見ることが可能です」(前出・ジャーナリスト)

 だがAndroid TVを採用したモデルは値段もかなり高い。また、似たようなスマート・テレビというものもあって、こちらもメーカー各社が発売している。

 このようにしてメディアと機器も多様化してテレビの概念はだいぶ様変わりしているのが現状だ。だからこそ、今回の判決が下された意味はさらに大きい。

(猫間滋)

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