「ノーマネーでフィニッシュです」
MC吉田栄作の決めセリフで一時代を築いた伝説のリアリティ番組「¥マネーの虎」(日本テレビ系/2001年〜2004年)。「虎」と呼ばれる社長の前で、一般の志願者がみずからのビジネスアイデアを披露。お眼鏡にかなえば、夢実現のための資金を出資されるという内容で、「奇跡の人間リサイクル」「飲食界のショーン・コネリー」といったテレビ的なキャッチコピーをつけられた個性あふれる社長が「あほんだら!」と声を荒げるガチンコの場面は多くの視聴者の心をつかんだ。
同番組を土曜の深夜放送だった初期から支えた一人の「虎」が、このコロナ禍における政府の緊急対応策に“牙”をむいた。
「手持ちの運転資金も尽きつつあります。このままでは、取引業者への支払いも滞ってしまうかもしれない。国は困窮した企業やフリーランスへの支援策を打ち出していますが、私たちのような業種は蚊帳の外。政府から『お前らは潰れてもいいんだ』と言われているようで、腹が立ってなりません」
打ち明けるのは群馬県と栃木県を中心に6軒のカップルズホテルを運営する「ホテルセーラグループ株式会社」の市東剛社長。「¥マネーの虎」の愛好家なら、一度は名前を聞いたことがあるだろう。現在、日本政策金融公庫は政府の要請を受けて、旅館業や飲食店を営む事業者向けに「新型コロナウイルス感染症にかかる衛生環境激変特別貸付」を発動。業績の悪化を補填するため、企業の信用度や担保の有無にかかわらず低金利で貸しつけるというものだが……。
「この特別貸付は、それまでうまくまわっていた事業者が、コロナで潰れないようにするための制度だと理解しています。『国がケツを持つ。だからこのお金でしのいでくれ』と、後ろ盾になって銀行が“つなぎ資金”を融通するわけですよね? ところが私たちが運営するようなカップルズホテルは、旅館業でもなければ飲食業でもないということで、銀行に足を運んでも門前払いですよ」(市東剛社長、以下同)
この「特別貸付」の利用条件である《最近1ヵ月の売上高が前年または前々年の同期に比較して10%以上減少していること》《中長期的に業況が回復し発展することが見込まれること》を満たせば、旅館業なら3000万円を限度額に融資が受けられることになっている。
「立地によって異なりますが、売上が半分程度まで落ち込んだホテルもあります。私のところはまだマシかもしれません。知人が経営しているカップルズホテルは7割減と聞きました。この業界は、建物や設備にかける減価償却費の重みが大きい関係で、見込んでいた売上よりも3割落ち込むと赤字になってしまうんです」
もちろん、このコロナ禍で資金繰りに苦しんでいるのはカップルズホテル業界だけではない。経済的な災禍はどんな業界にも大きな影響を及ぼしているが、他の経営者同様、市東剛社長は「ノーマネー」で終われない切実な事情を抱えていた。
「このままでは会社を支えてくれた約80名の従業員に厳しい通告をしなくてはならなくなってしまう。休んでもらっている従業員に支払う休業手当には、国の雇用調整助成金を充てていますが、一度離れてしまった人はなかなか戻ってきてくれません。これは私だけの問題ではなく、廃業危機に直面している全国のカップルズホテルの経営者が同じ憤りを覚えているはず。日本独自の“ホテル文化”がコロナに破壊されないためにも、政府には事業者への支援策をもう一度見直してもらいたいと思っています」
カップルや不貞男女、時には子を持つ夫婦が、日常を忘れて“行為”に没頭したカップルズホテル。新型コロナはピンク産業の風景をも大きく変えようとしている。
(編集部)