精力剤というのは果たして、いつ頃から存在したのか。人類が最も古くから愛用してきたものとは……。
「それはローヤルゼリーではないでしょうか」
こう言い切るのは、ベテランの医療ジャーナリストである。
人類がハチミツを利用してきた歴史は実に長く、約8000年前のものと推定されるスペイン・バレンシアの洞窟の壁画に、ハチミツを採取する絵が描かれている。エジプトでは紀元前2500年頃にすでに、養蜂が行われていたという。
そして古代ギリシャにおいては、ハチミツとはまた別の物質が、ミツバチの巣の中にあることが知られていた。すなわち、ローヤルゼリーである。中国でも古くからローヤルゼリーの効能は注目され、今から2000年前に編纂された薬物書「神農本草経」に〈ローヤルゼリーには生命力を充実させ、不老延命の効果がある〉と記されている。
そもそもミツバチの中でも、働きバチの寿命はわずか1カ月ほど。一方で、ひとつの群れに1匹だけ存在し君臨する女王蜂は、働きバチの40倍も長生きで、最盛期には1日2000個以上の卵を産み続ける。この女王蜂の食料こそが、ローヤルゼリーなのだ。ミツバチの生態に詳しい昆虫研究家によれば、
「ローヤルゼリーは、女王蜂の身近にいる働きバチたちが花粉とハチミツを食べた末にできる分泌物のことです。ハチミツの成分がほとんど糖質なのに対し、ローヤルゼリーはたんぱく質、糖質、脂質やビタミン、ミネラルなどさまざまな栄養素が詰まった最高の天然栄養食。とりわけ、繁殖能力を大幅に増大してくれます」
ローヤルゼリーがもたらす女王蜂の繁殖力はハンパではないのだ。
通常、女王蜂は幼虫から成虫になって7日間程度で雄バチを引き連れて空高く飛び立ち、最後まで追ってきた強い雄バチ10匹前後と続けて「空中交尾」する。しかも雄バチは合体した瞬間、全ての精を抜き取られ昇天してしまう。ローヤルゼリーによって精力を活性化させた女王蜂が次々と雄バチを犠牲にした末に受精して巣に戻り、せっせと1日1000個単位の卵を産み続けるのだ。恐るべし。
ではいったい、どんな成分が“ビンビン体質”を生むというのか。茨城大学農学部の研究室では、ローヤルゼリーの10%前後を占めるたんぱく質に着目し、分析を試みた。するとその中に、動物の細胞増殖を促し細胞死を抑えるアピシンという糖たんぱく質が含まれることがわかったのだ。医療ジャーナリストの解説。
「実験ではアピシンを、培養中のヒトの血液細胞に加えると、5日間で細胞数が7倍になっていたんですね。それを加えなければ3〜4倍にしかならない。つまりアピシンには、新しい生命を生み出す力がみなぎっているわけです。このアピシンは、ローヤルゼリーだけに含まれます」
約8000年前もの長きにわたって愛された“ビンビン食材”。その根強い人気にはしっかりとした根拠があったのだ。