マルチ商法といえば、商品を買った顧客が、新たな顧客に商品を売り、その顧客がまた新たな顧客を探し‥‥というピラミッド構造の中でマージンが発生するというネットワークビジネス。扱う商品は化粧品、健康食品、浄水器と多岐にわたるが、今ではその商材はモノから「モノなし」に移行しつつあるという。国民生活センター相談情報部の小池輝明主事が解説する。
「相談件数では、17年を境に仮想通貨やアフィリエイト、投資や副業などの儲け話をうたう『モノなしマルチ商法』が、『商品』の契約に関する相談を上回っています。18年の統計では相談者は20代が最も多く、2番目に多いのが60代以上の高齢者です」
怪しげなネックレスに数百万円の値がつけば、疑いを挟む余地がある。だが近年は、目に見えないマルチが跋扈しているというのだ。
「『うまい儲け話がある』と、ネット上で勧誘を行い、セミナーに集めたりしますが、具体的な儲けのシステムがわからないまま契約してしまうケースがほとんど。たとえ出資しても、儲け話についての説明はほとんどナシというケースもありました」(小池氏)
悪質なマルチ業者は、あらゆるところに網を張って標的を待ち構えている。
「マッチングアプリで知り合った30代の女性から投資セミナーに勧誘されたのがきっかけでした」
こう話すのは、法外な入会金をダマし取られた40代の被害者男性だ。続けてそのセミナーの内容を明かすには、
「投資の内容については一切触れず、主催者が高級時計をチラつかせながら、いかに成功を収めているのかを語るのみ。最終的に、月1回開催される株の勉強会への出席を求められました」
勉強会に参加するためには80万円が必要だという。男性が入会の意思を示さずに尻込みしていると、
「『今変われない人間は一生ダメな人生だ』『お前の人生はうまくいっていない』と繰り返しあおられて強引に契約を交わされてしまいました。実際の勉強会では投資には一切触れず、いかにセミナーに人を集客して契約させるかをレクチャーされるのみ。その時に、勧誘に一人成功するごとに30万円のキックバックが入ることを知りました」(被害者男性)
セミナーの講師が会員を集めて儲けることばかりを語る場合は要注意。モノを介在せず、金銭の配当だけで成り立つ組織ならば、もはやマルチでもない違法なねずみ講の可能性が高いからだ。