一説には、サラリーマンの寿命を10年縮めると言われる「満員電車」での通勤。ところがこの〝痛勤〟時間こそ「脳トレの最適な空間」と提唱する脳内科医がいる。過去1万人以上の脳を診断したスペシャリストによる「逆転の発想」でボケを防止する秘策とは─。
「ネガティブなイメージが付きまとう満員電車ですが、実は脳を鍛えて活性化するには最高の空間です。電車内や乗車前後の行動を少し変えるだけで、脳の働きを高めることができるのです」
こう話すのは、今年10月に「脳にいい! 通勤電車の乗り方」(交通新聞社新書)を上梓したばかりの、加藤プラチナクリニックの加藤俊徳院長だ。
「私自身、数年前まで通勤ラッシュを日常的に経験していました。今もわざわざ朝の電車に揺られて出先のカフェで勉強して、また電車で帰ることもしばしばあります。その時、朝から冴えない顔をした多くの人を見てしまうと、悲壮な気持ちになりますよね。行き帰りの電車の中で脳のメカニズムに反した行動をとると、心身ともに疲れやすくなり、毎日が負のループに陥りやすくなります。私は、このような状態にある脳を『通勤ストレス脳』と呼んでいます」
さっそく、脳の疲労度を簡単に確認できるテストでチェックしてみよう。
■「通勤ストレス脳」チェックリスト
・通勤電車に乗る前は憂鬱になる
・睡眠時間は7時間未満である
・朝食は摂らないで出勤することが多い
・車内ではもっぱらゲームをして過ごす
・通勤中は常にイライラしている
・車内では寝ていることが多い
・その日のニュースや出来事を知らないまま、帰宅することがよくある
・通勤中の出来事をあとで聞かれても、ほとんど覚えていない
・1日に1時間以上歩かない
・通勤中は、周りの流れに合わせて歩いている
・寄り道をしないで、いつも同じ時間に帰宅している
・車内では「YouTube」を見たり、SNSをしている
・駅構内での移動は、基本的にエスカレーターやエレベーターを使う
・出社はいつも始業ギリギリになる
・景色や周りの人の様子を見るのが疲れる
・席が空いたら、すぐに座る
・乗る車両、座る席(あるいは立つ場所)はいつも同じ
・通勤後の午前中はほとんど頭が働かず、午後から調子が出るほうだ
・車内ではカバンなどの荷物が、人によくぶつかる
・車内で何もしないと落ち着かないし、時間がもったいないと感じる
「4個未満の人は問題ありません。5個から12個の人は、中程度の『通勤ストレス脳』です。積極的に脳の活性化を図りましょう。13個以上の人は重症ですので、まずは生活のリズム(食生活、睡眠、運動)の改善を図ること。そのうえで脳のトレーニングを取り入れていけば、見違えるようなモチベーションを維持しながら仕事力を向上させ、将来の認知症(老化)を予防することができます」
脳の発達は3歳頃までに成人の状態に近づき、その後の成長はほとんどストップすると考えられてきたが、鍛えれば年齢に関係なく成長し続けるということがわかっている。
「実は、50代以降になっても鍛え方しだいで脳に眠っている潜在的な力を引き出し、成長させることができます。脳には1000億を超える神経細胞があり、同じような働きをしている細胞が集まり、集団を形作っています。私は、この集団を『脳番地』と名付け、よりわかりやすくするため、運動系脳番地以下、記憶系、感情系、伝達系、理解系、視覚系、聴覚系、思考系の8つの機能に分けました」
それぞれの脳番地同士がつながりながら働き、人は日々経験を重ねて脳番地を刺激し、脳の力を伸ばしていくのだ。