「巨額詐欺男」がハマった「オンナとカネ」無間地獄(4)「つけヒゲ」で変装して現れる男

 病院再生事業を志した男は、ビッグビジネスを前に金の魔力に負けた。そして、女に入れあげるなど欲に溺れた結果、「リーマン・ショック」の一因となった巨額詐欺に手を染めてしまう─。そんな男が事件の謎である騙し取った金の行方を激白。またしても、その裏側には酒池肉林の罠が潜んでいたのだ!

 齋藤栄功氏が創業した医療コンサル会社は、ギリシャ神話に登場する医神から名づけられた。しかし、その社名も今では、巨額詐欺事件の通称として、人々に記憶されるだけとなった。

 いわゆる「アスクレピオス事件」だ。総合商社「丸紅」の保証をうたって投資を募り、病院再生事業を手がけるというものだった。当初こそ、事業のために集めた資金を回していたが、すぐに綻び始める。最終的に集めた資金を、そのまま償還に充てるという自転車操業に陥り、08年に米投資銀行「リーマン・ブラザーズ」の日本法人から371億円を騙し取ったところで、アスクレピオスは破綻した。

 この事件から約3カ月後に米国でリーマンも破綻。世界的な金融危機と大不況「リーマン・ショック」につながる。前述の巨額詐欺事件の主犯格として逮捕された齋藤氏は、まさに〝リーマン・ショックのトリガーを引いた男〟と言われた。

 今年5月、「リーマンの牢獄」(講談社)を上梓した齋藤氏に本誌がインタビュー。前号では、詐欺事件の裏側で巨万の富を得て、女遊びや高級車を乗り回す享楽の日々を送っていたことを白状した。が、今回は騙し取った金の行方について語ってもらおう。

 逮捕目前、齋藤氏は自分に捜査の手が忍び寄っていることを察知し、「資金隠し」と「海外逃亡」を図っている。そこには「指南役」とも呼べる人物がいた。齋藤氏の著書にならい、仮に黒崎勉氏としておこう。齋藤氏が初めて黒崎氏と遭遇するのは、06年夏頃のことだった。齋藤氏が話す。

「当時、アスクレピオスの事業拡大を狙い、いわゆる〝裏口上場〟を目指していました。そこで、目を付けたのが、同じ医療系のLTTバイオファーマ(以下、LTT)という会社でした」

 裏口上場とは未上場企業が上場企業を買収することで証券取引所の審査を受けずに上場を果たすことを指す。その後、齋藤氏はLTTの買収に成功している。

「その前に、LTTの株式をある程度、保有しておく必要がありました。そこで、以前の勤め先の関係者からLTTの株主として紹介されたのが黒崎でした。有名製薬会社の娘婿で当時は20代の若者でしたが、物腰は柔かく、交渉はスムーズに進みました。結果、市場より高い価格となりましたが、黒崎が持つ株式を買い取ることができたのです。ただ、史上最年少で投資顧問業の登録をしたというだけあって、黒崎は利益を得ることには貪欲でした。私が株を取得する目的をしつこく聞いてきて、正直に答えると、見返りとしてストックオプションを要求されましたからね」(齋藤氏)

 当初はあくまでビジネスライクな関係だった。が、黒崎氏はアスクレピオスの事業に関心を示し、実際に出資をするなど、顔を合わせる機会が増えていく。

「本当かどうかはわかりませんが、黒崎は『徹子の部屋』に出演したことがあると自慢したり、小泉純一郎元首相と胡錦濤・元中国国家主席に両脇を囲まれたスリーショットの写真を見せてくる。一方で黒崎と会う時は、いつでも人目につかない店を指定されました。時にはつけヒゲで変装をして現れたことも‥‥。どこかつかみどころのない人物という印象はぬぐえませんでした」(齋藤氏)

齋藤栄功(さいとう・しげのり)1962年、長野県生まれ。86年に中央大学法学部を卒業後、山一證券に入社。同社の自主廃業後に信用組合、外資系証券会社を経て、医療経営コンサル会社「アスクレピオス」を創業する。08年に詐欺とインサイダー取引容疑で逮捕され、その後に懲役15年の判決を受けて長野刑務所に服役。22年に仮釈放された。

(つづく)

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