世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「佐々木朗希の102球降板に思う」

 史上初の2試合連続パーフェクトの権利を放棄した佐々木朗希の降板劇が波紋を呼んだ。4月10日のオリックス戦で28年ぶりの完全試合を達成し、続く17日の日本ハム戦でも8回まで一人も走者を出さなかったが、球数102球で0-0のまま交代となった。昭和の野球人としては複雑な思いはあるけど、井口監督の判断も仕方ないのかな。

 並の投手なら、球数が何球でも絶対ありえない降板で、現地で見ていたファンは歴史的快挙を見たかったはず。でも、朗希は5年先、10年先が末恐ろしい球界の宝。今は最初から球数を100球前後に設定してのこと。もし、ロッテが8回裏に1点取っていたなら、僕は投げさせてほしかった。だけど0-0では9回表を抑えたところで記録は達成できたかどうかわからなかったから、やはり仕方ないのかな。

 今は投手の肩、肘にナーバスな時代やし、世間も記録目前での降板に賛成の声が圧倒的に多いという。よく持ち出されるのが、3年前、大船渡高3年夏の岩手県大会決勝で「故障予防のため」に登板を回避したこと。「あの時に無理させなかったのが正解」と言う人もいるけど、それに関しては違うと言いたい。

 きれいな投げ方をしているし、決勝戦で1度ぐらい連投してもどうってことなかったはず。何より、大船渡高の他の選手は、朗希の将来のために野球をやっていたわけでない。甲子園という大目標に向かって3年間頑張っていたのに、あと一歩のところでエースが投げなかったのは、今でもどうかと思う。もちろんチームメートは口には出さないけど、親御さんやOBも含めて、複雑な思いを抱えている人はいると思う。

 それにしても、とんでもない投手に成長したのは事実。日本ハム戦では援護がなく「野手は何してるねん」と思ったファンも多いかもしれないが、完全試合ともなると味方にもプレッシャーはかかる。僕も1978年8月31日の今井雄太郎の完全試合(対ロッテ)をセンターで経験しているから、気持ちはよくわかる。

 その時は中盤までに得点を重ねて打席での重圧はなかったが、守備ではさすがに緊張した。ノーヒットノーランならエラーはOKやけど、完全試合は自分の失策で記録が途切れてしまうんやから。確か前日、雨が降ったはずで、宮城球場のグラウンド状況も悪かった。外野手でも嫌やったから内野手はなおさら。ましてや今井は朗希のように三振をバッタバッタと奪う投手ではなく、シュートで打たせて取るタイプ。その時も三振はわずか3つだけ。後ろから見ていて躍動感があって打たれる気はしなかったけど、ボテボテの内野安打や、ポテンヒットが怖かった。

 朗希の場合はまた完全試合のチャンスが訪れると思うが、手をこまねいていては相手チームもプロとして情けない。セーフティーバントのようなせこい作戦はしなくていいけど、160キロのストレートをいかに打ち返すか。今は下からバットが出る選手が多く、コンパクトに強く振ることができていない。150キロの高速フォークが来たら「ごめんなさい」で仕方ないにしても、ストレートには差し込まれずはじき返す必要がある。ヒットを打てなくても、ファウルで1球でも多く粘れば、球数を放らすこともできる。朗希攻略はプロ野球全体のレベルアップにつながると思うで。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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